文/藤原邦康

あの症状は顎関節症のせい!?| 早期発見のための顎関節症チェック

前回、顎関節症は初期段階では自覚症状がなく対処を先延ばししてしまう人が多いことをお伝えしました。では、いかに早期発見したら良いのでしょうか? ヒントは、頭痛や肩こりなどよりわかりやすい身近な症状に着目することです。以下、アゴとは関係なさそうに思えてじつは顎関節症が遠因となる症状について解説しましょう。

■頭痛

食事の際に口を動かす咀嚼筋(そしゃくきん)の一つに、側頭筋(そくとうきん)という筋肉があります。文字どおり、頭の側面を覆う口を閉じる筋肉です。広く厚みがあり、側頭部に手を当てて軽く歯を食いしばるとグッと固くなるのを感じられます。顎関節症の傾向がある人は食いしばり癖によってこの筋肉が緊張します。歯ぎしり・食いしばりが続くと、頭が万力で締め付けられるようにうずく緊張型頭痛を引き起こします。偏咀嚼(へんそしゃく)によって筋肉のこわばりに左右差があると、左右どちらかだけに頭痛が出ることもあります。

■肩こり

じつは、肩こりも顎関節症と大きく関わっています。そもそも、肩こりが生じるのは頭の位置のバランスが崩れて頭から肩にかけての筋肉が突っ張るから。頭は一つの塊のように見えて、じつは23パーツの頭蓋骨(とうがいこつ)で構成されています。このうち顎関節を形づくっているのは耳の近くのパーツ、側頭骨(そくとうこつ)という骨。この側頭骨からは胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)という筋肉が首の左右にⅤの字に伸びています。胸鎖乳突筋は顎関節の動きとも連動し頭と首の姿勢制御をしています。歯ぎしり・食いしばりなどによって顎関節や側頭骨に偏った緊張が加わると、胸鎖乳突筋もこわばってきます。すると、首や頭部の姿勢制御に無理が生じて首すじ、肩や後頭部が張ってきます。

一方、下アゴ(下顎骨)は肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)という筋肉で左右の肩甲骨をハの字につながっています。この筋肉によって下顎骨と肩甲骨は(喉元にある舌骨を支点に)まるでやじろべえのようにバランスを取り合っています。よって、下顎骨がゆがむと肩甲骨の左右バランスも崩れて肩甲骨周囲から肩や背中のこわばりにつながります。

また、顎関節症の患者さんは僧帽筋など頭や肩を支える筋肉も緊張して姿勢が悪くなり肩こりが慢性化しやすくなります。他にも、広頸筋(こうけいきん)というアゴと首をつなぐ筋肉も食いしばりによって突っ張り、首や肩周りの筋肉の疲れや血行不良を引き起こします。つまり、筋肉を通じてアゴのゆがみが肩こりにつながるわけです。揉んでもほぐしても改善しない慢性肩こりがある場合は顎関節症を疑ってみる必要があります。

■寝違え

朝起きたら首がこわばって動けない、いわゆる「寝違え」の状態になることがありますね。つい首だけの症状と思って首を温めたり冷やしたりする方が多いのですが、ほとんど即効性はありません。実は、寝違えは首だけの問題ではなく、ほとんどのケースで夜間の歯ぎしり・食いしばり癖が関わっています。睡眠時の首のポジションの問題に加えアゴの緊張によって、上下の両方から首にロックがかかってしまうイメージです。私が10数年におよぶ臨床で学んだ経験則としては、寝違えは首より先にまずアゴを緩めてあげると驚くほど早く寝違えから解放されます。逆に、アゴの緊張を放置したまま首や肩を揉みほぐされると悪化する可能性が高いものです。

■むち打ちの後遺症

交通事故などで引き起こされるむち打ち症は首を痛めるイメージが強いですね。でも、じつは顎関節にもダメージを負います。首の軟部組織を損傷するほどの強い負荷は、アゴにも確実に及んでいるからです。頭を揺さぶられれば、その衝撃は顎関節を構成する側頭骨(先述)にもかかるのは当然のこと。アゴの靭帯は首よりずっと細いため傷つきやすいのです。でも、救急治療時に病院で顎関節を処置されることはほとんどありませんね。もとより顎関節は(股関節などと異なり)「可動性が高く安定性が低い」という造りになっています。むち打ち症によってさらに安定性が低くなった顎関節はゆがみやすくなります。むち打ち症をきっかけに徐々に顎関節症が進行する可能性があることを知っておきましょう。ちなみに、当院に訪れる患者さんの約1/3にむち打ち症の過去歴があります。

これらはどれも「まさか顎関節症と関わっているなんて!?」と思うようなの症状ばかりですが、実は根っこでつながっているのですね。以下のチェック項目も合わせても参照にしてみてください。次回は、顎関節症をどう改善するかについて解説します。

【早期発見のための顎関節症チェック】

1. 口を開け閉めする時に音がする。
2. 人前で話す/歌う仕事をしている。
3. 歯ぎしり/食いしばり癖がある。
4. 口を開いて、縦に指3本入らない。
5. メガネのかけ心地が左右で異なる。
6. 目の大きさが左右で異なる。
7. 目の奥が締め付けられるように痛む。
8. 耳鳴りがする。
9. マッサージしても肩こりが治まらない。
10. 喫煙する。
11. 喋りづらい/ろれつが回らない。
12. 片側で食べ物を噛む。
13. 口の内側や舌を噛んでしまう。
14. 競技スポーツをしている(いた)。
15. 歯ごたえがある食べ物を好んで食べる。
16. 頭皮が固くなってきた。
17. 現在、歯科治療中である。
18. 歯科で奥歯の磨り減りを指摘された。
19. 楽器を弾く/吹く。
20. 歯列矯正・インプラントをしている。

文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。

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