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料理学院長・江上栄子さんの朝めし自慢「カフェオレは“グランタース”(大きな碗)に限ります」

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

料理学院2代目の健康は、もちろん“食”が基本。大きな器でたっぷりと飲む朝のカフェオレが、生涯現役の秘訣である。

【江上栄子さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、パン(トースト・クロワッサン)、ブリーチーズとスモークチーズ、蜂蜜、ふわふわ炒り卵(鰻蒲焼き・パセリ)、カフェオレ(黒ごまラテ)、大胆な季節の野菜(トマト・ヨーグルト・セルフィーユ・塩・胡椒)。パンには蜂蜜を塗り、甘みが欲しい朝はカフェオレにも蜂蜜を入れることがある。ふわふわ炒り卵には、前夜の残りの野菜の胡麻和えやしらす干し、桜えびなどを入れても美味。

急ぐ朝の定番はガスパチョ。材料(4人分)は胡瓜半本、トマト150g、赤パプリカ半個、玉葱10g、フランスパン50g、セルフィーユとパセリ、ハム適量、冷水1~1.5カップ、白ワインビネガー大さじ2、トマトペースト大さじ1を基本に、オリーブオイルを垂らすこともある。材料をミキサーにかけ、グラスに注いでグイっといただく。

「講演がある日の朝は、ふわふわ炒り卵に鰻を入れます。スタミナがつくし、声にもいいですからね」と江上栄子さん。6時半から7時に起床、朝食は8時頃だ。その後、9時に学院の朝礼、10時から授業が始まる。

昭和30年、青山学院大学の学生だった深川(旧姓)栄子さんは、東京に開校したばかりの『江上料理学院』の門を敲いた。生来の食いしん坊が高じての入学だった。

江上料理学院といえば、熊本訛りの江上節と江上スマイルと呼ばれた独特の笑顔で、戦後復興期の日本を元気にした料理研究家、江上トミさんが開いた学校である。

「江上家とは遠縁関係にあり、東京の料理学校ならと、母に薦められたのがきっかけでした」

これが、その後の人生を決めた。授業の後、江上家の人たちと夕食を共にするうちに昭和33年、ひとり息子の種一さんと結婚。栄子さんは佐賀県有田焼の窯元『香蘭社』の五女で、料理研究家の息子と、その料理を盛る陶磁器メーカーの娘との結婚であった。

翌年、長女出産。だが同年、フランス・パリのコルドンブルー料理学校留学を決意する。

「4か月の娘を残しての留学でしたが、“子供の身になって考えてごらん。豊かな見識と経験をもつ母親と、子育てしか知らない母親と、子供はどちらが幸せか”という義母の言葉が、逡巡する私の背中を押してくれました」

コルドンブルー料理学校の最終課程を卒業し、その後、世界60か国の家庭料理を学ぶ。昭和55年、トミさんが80歳で亡くなると、その遺志を継ぎ、学院長に就任。

「最初から料理研究家を志したわけではないし、義母から後継者を強要されたこともない。ただ、人の健康は食が基本。そのお手伝いができる尊さを実感しています」

昭和34年、義母の江上トミさんと初の海外へ。日本の醤油を世界に広めるためにハワイを皮切りに中南米、欧州などを回った。以後、義母との外国研究旅行は数十度に及んだ。

昨年、フランス共和国農事功労章オフィシエを受勲。フランスのチーズを日本に広めたことが評価されての受勲だった。『フランスチーズ鑑評騎士の会』理事長も務めている。

朝食、ふたつの定番

そういう江上さんの朝食には、ふたつの定番がある。ひとつは40年も愛用のフランス製“グランタース”(大きな碗)で飲むカフェオレ中心の献立だ。これには“ふわふわ炒り卵”と“大胆な季節の野菜”を欠かさない。

「カフェオレはグランタースに限ります。手に持ちやすく、冷めにくい。朝からたっぷり飲めるので、豊かな気分にもなれます。“大胆な季節の野菜”は江上トミ流。たとえば空豆なら莢ごと茹でてそのまま食卓へというように、野菜を丸ごといただく工夫です」

もうひとつの定番は、急ぐ朝に登場するガスパチョ(スペインの冷製スープ)だ。前夜に材料を調えておき、朝はミキサーにかけるだけ。それでいて栄養バランスは申し分ない。

パリッと焼きは、冷やご飯を利用。ふわふわ炒り卵とパンに代わって登場する。直火にかけられる小鍋にバターを塗り、ご飯と卵を混ぜて塩、胡椒し、ハムと茹でたミックスビーンズをのせてチーズをふる。魚焼きグリルやトースターなどでご飯がパリッとするまで焼き、刻みパセリを。

創設者・江上トミの教えを継ぎ、今も週5日は教壇に立つ

江上さんは絵画、声楽と趣味も多彩。健康維持のためにヘルスクラブにも通いながら、今も週5日は講座を受け持っている。東京の学院開校から60余年。年齢、性別を問わず、延べ10万人以上もの卒業生を世に送り出してきた。

50代に入ってから日本画を学び始めた。「松竹梅」と題した屏びようぶ風は6~7年前、ベルギーでの展覧会に出品した作品。松竹梅に鴛鴦(おしどり)が描かれており、今も毎年、江上家の正月を彩っている。

今は亡き石井好子さんのシャンソンの会で、歌を披露する江上さん(平成14年頃)。石井さんとはパリのコルドンブルー料理学校の同窓生で、帰国後も親しく付き合っていた。

ヘルスクラブ主催の皇居一周速歩きの会で、完走のテープを切る江上さん。多忙な毎日だが、ヘルスクラブには時間を見つけて週3回は通い、ストレッチなどに励んでいる。

「創設者・江上トミの“ご家庭の幸せは愛情を込めた料理から”という考え方を受け継ぎ、一番大事にしているのが家庭料理です。といっても幅広く、中国料理、フレンチ&イタリアン、会席料理、もちろん男性クラスもあります」

なかでも「男性グルメ教室」や「会席料理」は学院長が主となって担当するクラスである(問:江上料理学院 電話:03・3269・0281)。

人生いい時ばかりとは限らない。だが、困難もにっこり笑ってドンと受け止めていけばいい。とびきりの笑顔と優しい語り口で、先代からの伝統を守る。

『江上料理学院 90年のベストレシピ100』(東京書店 電話:03・5212・4100)は、先代の江上トミさんが礎を築いて以来、90年の実績と伝統を持つ江上料理学院に伝わる人気のレシピを紹介。

『60歳からの料理事始め』(主婦と生活社 江上料理学院 電話:03・3269・0281)は、仕事ひと筋で料理などしたことがない男性に贈る、基本から応用までの料理を満載。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

※この記事は『サライ』本誌2018年9月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。

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