取材・文/わたなべあや

もし風邪をひいてしまったら、まず総合感冒薬に手が伸びるかもしれませんが、実は漢方薬のほうが早く治ることが分かっています。

西洋医学の総合感冒薬と、東洋医学の漢方薬の違い。傷寒(しょうかん)と温病(おんびょう)とは、風邪薬としてよく知られている漢方薬の葛根湯(かっこんとう)はどのように飲めばいいのかなど、東洋医学がご専門の西本クリニック院長、西本隆先生に伺いました。

西本クリニック院長、西本隆先生

■漢方薬は症状や体質で使い分ける

そもそも風邪とは、インフルエンザウイルスやRSウイルス、ライノウイルスなどの微生物が原因の病気です。

「あれ? 風邪とインフルエンザは違う病気なのでは」と思われるかもしれませんが、いずれも「ウイルス感染症によって引き起こされる感冒様症状」という点では共通しています。一般に、インフルエンザのほうが症状が強く出ることが多く、インフルエンザ脳症などの重症例も知られていますが、インフルエンザウイルスに感染していても症状がまったく出ない人もいますし、軽い風邪だと思ってすんでしまうこともあるのです。

逆に、一般の風邪から肺炎などを引き起こす可能性もあるので、風邪だからといって軽んじることもできません。

■西洋薬と漢方薬のアプローチの違い

総合感冒薬などの西洋薬は「症状を緩和する」ことはできますが、それは風邪を根本から「治す」薬ではありません。インフルエンザの方に処方される抗ウイルス薬も、ウイルスを殺すことはできませんし、服用したからといって死亡率が下がるわけではないのです。また、無理に解熱鎮痛剤で熱を下げることで免疫力が低下するため、ウイルスが長生きして風邪がなかなか治らないこともよくあります。

しかし、漢方薬の場合は、風邪だからこの薬、インフルエンザだからこの薬という処方はしません。風邪に使える漢方薬はたくさんあるので、症状や体質によって細かく使い分け、病気の根本から治す治療を行うのです。

根本から治すというのは、いったん熱を一定の高さまで上げてウイルスを撃退し、熱を下げるということなのですが、多くの漢方薬は、そうした考え方に基づいています。発汗を促して熱を上げることで、白血球の活動を活発にして、ウイルスを退治するのです。

普通に体力のある方であれば、2~3日熱が出たほうが風邪は早く治ります。実際に、総合感冒薬と「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」の治療効果を比較したデータがあるのですが、麻黄附子細辛湯のほうがいろいろな症状が早く治まることが分かっています。

■2つの風邪――傷寒と温病

東洋医学では、風邪は大きく分けて2種類、「傷寒」と、「温病」があると考えます。その違いは以下のとおりです。

【傷寒】=寒気がするが、熱はあまり出ない。節々が痛む。発汗がある。毛穴がぐーっと縮んでいる。

【温病】=寒気はしない。熱が出て、喉が痛む。頭痛もする。風邪のひき始めから発汗が少しある。毛穴が緩んでいる。

東洋医学では、患者の風邪が傷寒なのか温病なのかを見極め、ひき始めの症状や悪寒や発汗の有無や程度、その他の症状や日頃の体質や体調を加味して薬を処方します。

たとえば「傷寒」には、「麻黄附子細辛湯」や「葛根湯」「麻黄湯」「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」「桂枝湯(けいしとう)」などを用います。

一方で、「温病」の方には、「清熱薬」といって炎症を取り除く薬を処方します。「銀翹散(ぎんぎょうさん)」「駆風解毒湯(くふうげどくとう)」「カッコウ正気散」なども用います(カッコウ正気散は、下痢や吐き気などの胃腸症状がある夏の風邪によく使う薬です)。また「参蘇飲」(じんそいん)は、子供や高齢者、虚弱体質や妊婦の方で、咳や痰が多い場合に適しています。

■葛根湯の正しい飲み方

よく知られている漢方薬のひとつに「葛根湯(かっこんとう)」があります。ここでは、葛根湯の正しい使い方をご紹介しましょう。

まず、葛根湯は風邪のひき始めだけに飲む、いわば最初が勝負の薬です。また葛根湯は傷寒の方に使う薬であり、悪寒が強く、肩から背中のこりが顕著で、発汗がない方に用います。

中国の古典医学書『傷寒論(しょうかんろん)』に葛根湯の飲み方が書いてあるのですが、散剤であればお湯にといて飲み、その後おかゆや温かいスープを少し食べて体を温めます。厚着をして発汗を促すのですが、一回汗が出たら、それで治るので服用をやめましょう。何回も汗を出しては、体が弱ってしまうからです。

治らなければもう一度同じことを繰り返しますが、何度もそれを続けるのではなく、1回~3回くらいまでにしてください。汗が出ない、汗は出たけど喉の痛みが残るという場合は、薬を変える必要があります。

*  *  *

あえて一定の熱を出すことで免疫力を上げてウイルスを撃退する漢方薬は、風邪を根本から早く治すことができます。薬局で売っているものもありますが、薬の種類が多く、症状や体質によって細かく使い分けする必要があるので、できるだけ知見豊かなお近くの漢方医に処方してもらいましょう。

指導/西本隆(にしもと・たかし)
昭和56年神戸大学医学部卒業、同年神戸大学医学部第1内科入局。その後、市立加西病院、兵庫県立尼崎病院内科東洋医学科、兵庫県立柏原病院内科、兵庫県立東洋医学研究所、阪神漢方研究所付属クリニックなどを経て平成8年兵庫県西宮市にて西本クリニック開院。(http://www.nishimotoclinic.jp/

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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