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健康

漢方薬の処方とあわせて「社会的処方」が必要となる理由【名医に聞く健康の秘訣】

談/三谷和男先生(三谷ファミリークリニック院長 )

退職後、あるいは退職を間近に控え、第2の人生について思いを巡らせる時、時を同じくして肝臓や血圧、コレステロール値の異常など、健康上の問題も気になるという方が多いのではないでしょうか。

そんなとき、なんとなく「副作用が少ない」というイメージで、漢方薬による治療を求めて来院される方が多いのですが、ここで本来あるべき漢方医療の姿と、その意義についてお伝えしておきましょう。

■本当に漢方薬は副作用が少ないのか

風邪の時に飲む「葛根湯(かっこんとう)」をはじめ、漢方薬のエキス製剤がいろいろと市販されていますが、漢方薬にも副作用はあります。確かに、西洋薬に比べ比較的副作用が少ないものが多いですが、一方で、服用のタイミングや方法によっては顕著な効果が期待できない場合もあるというのも事実です。そこに、どのような手段を講ずるかというのが漢方医の手腕であり、期待されるところなのです。

たとえば、何らかの精神的不安などによって不眠に悩む方の場合、西洋薬を処方すれば即効性や一定の効果は期待できます。一方、漢方薬を使う場合、副作用は西洋薬に比べ少ないですが、患者さんが「本当に良くなったなあ」と効果を実感できるようにするには、医師が手を差し伸べる必要があります。

家庭環境や職業など、不眠には裏に隠れている問題があることが多いため、そこに介入することも必要です。また、ある患者さんには「抑肝散」という薬を使って効果を上げることができても、同じ症状を訴える別の患者さんにも「抑肝散」が効くとは限りません。患者さんの体調や診察した医師によって、薬は変わることがあるのです。

■葛根湯はすべての風邪に効くのか

患者によって処方が変わるということを分かりやすく説明するために、風邪の時の市販薬としてよく知られている葛根湯を例にあげましょう。

葛根湯は短期間のうちに解熱など風邪の症状を緩和するための漢方薬ですが、そのため少し身体に負担がかかるのも事実です。その負担に対して耐えられるだけの体力が備わっていなければ、葛根湯を処方してはならないのです。

また、既に熱を下げるための治癒反応、発汗作用が始まっている場合は、葛根湯でなくそこから麻黄(まおう)と葛根(かっこん)を除いた桂枝湯(けいしとう)を処方するのが好ましいです。いずれにしても熱湯に溶かして服用しないと効果はありません。同じ風邪のように見えても、その人の身体や心の状態に合った薬を処方し、きめ細やかな治療ができるのが漢方薬のいいところでもあります。

ただ、漢方薬を処方する、漢方薬を飲むだけでは、漢方医療は成立しません。

■西洋薬も排除しない

高血圧やコレステロール値の問題を抱えている場合は、西洋薬と漢方薬の併用を促します。というのも、患者さんが「安全に幸せな生活を送る」ためには、洋の東西を問わず、どのような処方が最も好ましいのかという基準で診断するからです。十把一からげに西洋薬に対して嫌悪感を持つというのは、患者さんに不利益をもたらすことがあるのです。

特に男性の患者さんには、東洋医学における心身の健康状態を指し示す「気・血・水」の状態をスコア化して見せるようにしています。東洋医学の場合、気と血、水のバランスが良いことが健康の指標になり、それを一目瞭然にしたものがスコアです。

では、その気・血・水のバランスをとのように改善させるかというと、漢方薬の処方は治療におけるごく一部分です。そこでいわゆる「社会的処方」を実践した時に始めて漢方診療の効果が発揮できるのです。

■社会的処方による人生の充実感が必要

近年問題となっているのが、定年退職後、夫が家にひきこもり、挙句の果てに妻が夫在宅症候群になり、体調不良を訴えることです。この場合、夫も心身の不調を訴える場合があります。

薬の処方以外に、いかにして社会貢献しているという実感を持っていただき、日常生活を充実させられるかどうかが、解決策の鍵となります。そして、医師がそこまで導くために手を差し出すのが、「社会的処方」なのです。

私たちのクリニックは商店街の中にあります。その商店街の一角にコミュニティスペースを作り、ちぐさのもりと名づけました。そこでの取り組みの一つが「男会(おとこかい)」です。

いま、地域と密接な関係にある神社の森(そこが本当の千種の森です)にプロムナードを作る活動をしています。メンバーの一人に牧師さんがおられ、教会に平均年齢80歳の男性たちのカルテットを招き、演奏会を何回か開催しておられます。何も大きな活動である必要はないのですが、ご本人が充実感や自己肯定感を持てることが大切です。

このような「行動変容」をもたらすのは、なかなか自分の力だけでは困難なので、誰かの助けが必要となります。数は少ないですが、ひとを生物学的な存在としてだけではなく、社会的な存在とみる立場で漢方医療を実践している医師であれば、単に薬を処方するだけでなく、人生を幸せに送るための何らかの社会的処方ももたらしてくれるはずです。

談/三谷和男先生
三谷ファミリークリニック院長。鳥取大学医学部卒業、大阪大学大学院医学研究科博士課程。和歌山県立医科大学神経病研究部、同神経病研究部(現・神経内科) 博士研究員を経て、1992年より木津川厚生会加賀屋病院に勤務(1998年より院長・理事長)、2003年に京都府立医科大学東洋医学講座助教授(2007年より准教授)、2007年に三谷ファミリークリニックを開設。2016年3月、奈良県立医科大学の大和漢方医学薬学センター特任教授。日本東洋医学会監事・代議員、日本女性心身医学会評議員、日本抗加齢医学会評議員。

取材・文/わたなべあや
1964年10月生まれ、大阪府出身。大阪芸術大学文芸学科卒業。料理学校で講師をしていた母と医師の叔父に影響を受け、幼い頃より食べることと健康に高い関心を持つ。グルメ、
医療関係を中心に執筆中。

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