取材・文/わたなべあや
「人間は生き物なので、必ず病気をします。健康に気をつけて生きるよりも、“より良く生きようとする”ほうが体にいいし、若さを保つ秘訣でもあります」
そう語るのは、長年、最先端の救急医療の現場で陣頭指揮を取っておられる大槻俊輔(おおつき・としほ)先生。
今回は大槻先生に、人が最期まで輝きながら生きるための心得について伺いました。
■「生きている」それだけで幸せ!
みなさんも、朝起きた時には「今日も元気でやっていこう」とか「仕事がつらいな」「学校に行きたくないな」などいろんなことを思うことでしょう。私もそうです。そして、夕方。私は、これまで多くの人が亡くなっていったことに思いを馳せるのです。
戦争で死にたくもないのに死んでいった人。震災で津波や火災で、何がなんだか分からないうちに亡くなっていった人。時代を遡れば、戦国時代には度重なる戦火で、平安時代には食糧不足で貴族ですら餓死していきました。海外では、いまなお戦争やテロで命を落とす人がいて、感染症で亡くなる新生児もたくさんいます。
そう考えると、私たちは「ただ生きている」だけで十分幸せなのです。そして、メタボにならないようにとかタバコや酒を慎むことも大事ですが、やはり「より良く生きる」ことが肝心で、それこそが若さを保つ秘訣なのです。
たとえば、病院の栄養士さん。患者さんに「これとこれ、あれを食べないでね」と患者さんに言いますが、実際にはその栄養士さんがメタボだったりします。健康に気をつけるというのは、それくらい難しいことなのです。私は、少しアドバイスしながらも、無理はしなくていいというようにお伝えしています。
■若々しさを保つための3つの心得
人間、元気でいることにこしたことはありませんが、たとえ半身不随になろうが、癌で余命宣告されようが、最期まで輝いて生きることが、すなわち幸せなのです。私達はそのお手伝いをいたしますが、若さを保つためにアドバイスしていることが3つあります。
■1:身なりに気を配る
年齢を重ね、特に病気をすると、寒い時などセーターや防寒着を着込みたくなります。しかし、大学病院に来る時ぐらいはスーツを来てこようよと言っているのです。女性ならばワンピースを着たり、帽子やハンドバッグを持ったり。そして、帰りには、カフェでも寄ってみようよと。
すると、たとえ診察や検査でいらしていても、腰が曲がっていても車椅子に乗っていても、気持ちがシャンとなります。周りの景色にも自然になじむのです。
■2:家族や友人を大切にする
夫や妻に先立たれたり、お子様が先に亡くなったりというケースもあります。地域社会が快適なエイジングをサポートすることはある程度できますが、やはり家族や友人は、あなたを支えてくれるかけがえのないものです。大切にしましょう。
■3:外の世界とつながりをもつ
患者さんにこれを言うと非常に嫌がられるのですが、「お金と仕事」も大切です。特に、現代は第三次産業(サービス業)の仕事が多くため、口達者で頭の回転が早くないと生きにくいのは事実です。
残念ながら、体が不自由になると会社を解雇されるケースもあります。しかし、60歳くらいではまだまだハナタレ小僧です。少しでも仕事ができるのであれば、仕事をしたほうがいいのです。
退職後は、地域の活動に参加したり、ボランティアや趣味に生きたりするのもいい。家に引きこもりがちになるのが一番いけないので、外に出て社会とつながりを持つことをおすすめします。
神奈川県の川崎市では既に実現しているのですが、車を使わなくても電車やバスで事足りる、コンビニや看護ステーションがたくさんあって、高齢者が安心して住めるコンパクトシティが今後増えていくでしょう。そして、日本では10年後にすさまじく高齢化が進みますが、IoTやAIによって電子化された社会では、身体が不自由な方や認知症の方も暮らしやすくなると思います。
悲観的なニュースが多い昨今ですが、何歳になっても目標を決めて、それを目指す。それが若々しく生きる一番の秘訣です。
談/大槻俊輔 先生
近畿大学医学部附属病院 脳卒中センター 教授。神戸大学医学部卒業初期研修後、大阪大学医学部、米国国立衛生研究所、国立循環器病センター、広島大学病院をへて現職。脳卒中やてんかんなどの神経救急を専門.救急の仕事の厳しさと登山と美術鑑賞、近代史からの学びとの間を逡巡しながら、日々の人生と仕事を精一杯全力かつ謙虚誠実に打ち込んでいる。
取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。日本医学ジャーナリスト協会会員