取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
昨2017年、日本に国産アニメーション映画が誕生して100年を迎えた。そんな中で、人形アニメーション(立体アニメーション)という新分野を切り開いたのが持永只仁(1919~99)である。
人形アニメーションとは人形を少しずつ動かし、コマ撮りすることによって生まれる映像作品。現在、その第一人者といわれるのが眞賀里文子さんである。
眞賀里さんと人形アニメーションとの出会いは、学生時代のアルバイト。持永只仁率いる『人形映画製作所』に、美術スタッフとして入ったのがきっかけだ。
「ある日、持永さんの撮影を見学する機会があり、後日、完成した動画も見せてもらった。すると撮影の時はじっと止まって見えた人形が、まるで人間のように動いている。“これだ!”と思いました」
その頃、持永の元にアメリカからテレビシリーズの制作依頼が舞い込む。持永に認められて早々に“眞賀里班”ができた。これが幸運だった。人形アニメーションの基本を学ぶことができたのである。
以来、『コンタック』や『ドコモダケ』『液キャベ』など、手がけたCMは1000本以上。『コメットさん』『帝都物語』『遣唐使ものがたり』『ミス・ビードル号の大冒険』などテレビ、映画、展示映像とその活動分野は幅広い。
50年以上、人形に命を吹き込み、喜怒哀楽を演じさせてきたが、今は人形アニメーション風のCG(コンピュータ・グラフィック)が台頭しつつあるのが現状だ。
「けれど、CGでは人形の匂いが伝わらない。私は生の人間の気持ちが十指から人形に伝わったほうが、絶対面白いと思っています」
同じ釜の飯を食う
長きにわたってヒット作品を生みだしてきた秘訣は、好きだったことはもちろん、元気だったことだという。とはいえ、特別な健康法があるわけではない。朝食は、いたって簡素。カカオ含有量の多いチョコレートとコーヒーのみ。スタジオで、スタッフと打ち合わせをしながら摂るのが習慣だ。
昼食は皆で手分けして作り、一緒に食卓を囲む。
「ご飯と味噌汁の和食が定番。出汁は鰹節で取ります。それと年齢の割に骨密度が高いのは、よく登場するカルシウム豊富な小松菜お陰かも……」
“同じ釜の飯を食う”のが、『マガリスタジオ』の流儀である。
後継者を育て、彼らが活躍できる場を作りたい
平成19年、東京・阿佐谷に『アート・アニメーションのちいさな学校』が開校した。日本で唯一の人形アニメーションのコースがあり、眞賀里さんが学校長を務める。
「期間は1年ですが、5年目を迎える生徒もいます。テーマから人形制作、コマの練習、撮影と、初心者でもゼロから学べます。大事なのはテーマで、2~3人のチームに分かれて何を表現したいかを話し合いながら決めます」
テーマは絵本からヒントを得たり、独自に創作することもあるが、必読を課しているのが『今昔物語集』。この説話集は、想像力を刺激される物語の宝庫だという。
生徒は美術系の大学を卒業した若者から50~60代の人まで幅広い。年齢、性別、学歴不問。興味があれば、誰でも入学できる。チームごとに1年で1作品を完成。年度末には上映会が開催される。
「夜間コースは週2回ですが、1年で皆が育ってくれるから面白い」
日本の人形アニメーションの父・持永只仁の最後の弟子として、後継者を育て、彼らに発表の場を提供するのが使命である。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2018年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。