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健康

脳卒中の患者を受け入れた医師を悩ます「よくある質問」とは【名医に聞く健康の秘訣】

取材・文/わたなべあや

脳卒中は血管が詰まる脳梗塞と血管が破れて出血する脳出血に分かれます。いずれにしても脳組織にダメージが生じて脳が正常に機能しなくなり、半身が動かなくなったり、言葉が話せなくなったり、また重症になると意識障害から死に至ることもあります。

最近は治療法の進歩で死亡者は減っていますが、後遺症から元の生活が出来なくなることが多くなっています。

そこで今回は、あなたにとって本当の幸せとは何なのか、よりよく生きるとはどういうことなのか、考えるきっかけとして、国立病院機構大阪医療センター 脳卒中内科部長の橋川一雄先生に、脳卒中を発症するも高度医療で一命をとりとめた超高齢患者さんの例をご紹介いただきましょう。

■高度医療で一命をとりとめた脳卒中の患者さん

ある90歳手前の女性が救急車でかつぎこまれてきました。脳卒中だったのですが、他にも心臓や腎臓の病気があり、もともと寝たきりに近く日常的に介護が必要でした。

当院に来られたときには、右完全麻痺と全失語を認めました。全失語とは言葉について理解も、また自分の思ったことも言えない、つまり自分の意思を言葉では伝えることができない状態です。

MRIの検査で、左の中大脳動脈という太い血管が詰まっていることが分かり、このままでは右完全麻痺と全失語が続き、悪くすれば命に関わる状態でした。幸い発症から短時間のうちに搬送されてきたため、まず血栓を溶かすrt-PA静注療法を行いましたが、中大脳動脈は塞がったまま血流は再開せず、カテーテルという細い管を血管に通して血栓を回収する血管内治療の適応と考えられました。

ただ、明らかに心臓が肥大していて、腎機能も通常の造影検査を行うべきか躊躇するほど低下していたのです。そのため、造影剤をできるだけ少なくして治療を行ったところ、詰まった血栓を回収することに成功しました。その結果、右完全麻痺と失語は改善し、もとの状態にまで回復したのです。

脳卒中治療に関わる医師なら、通常は治療できないと判断することの多い腎不全と心不全の合併。しかも、超高齢者であったにも関わらず、血管内治療で良くなったことに感激した症例でした。

■患者さんにとって本当に幸せだったのか?

後日、開業医の先生の勉強会で、最近脳卒中治療の進歩の話をする機会があり、その中でこのような症例でも諦めずに治療が出来たことを報告しました。ところが出席されていたある先生から、この症例には治療しない選択は無かったのかとの質問がでました。脳卒中の治療は成功し元の状態に戻ったのですが、「果たしてそれが本当にご本人にとって幸せだったのか」という問いかけでした。

近年、内科医の宮本顕二・礼子夫妻の著書やブログで、“欧米では寝たきり患者がいない”ということが話題になっています。その議論の中心は、終末医療における欧米と日本との相違であり、血管内治療のような最新の急性期治療においても、日本と欧米では治療の考えた方が異なるのです。

日本では充実した保険制度を背景に最新の治療を平等に受けることが原則となっていますが、今回の女性の場合、高度医療によって“寝たきりの時間を延ばした”ことになります。

■「その治療は何のため?」という難問

また脳卒中の場合、症状が出て救急車で搬送されてきたら、迅速に治療する必要があります。がんと違って治療法や病院を選択する時間の余裕がほとんどありません。そうした状況の中、患者さんの家族の方によく聞かれることは「これは延命のための治療なのか、症状を治すための治療なのか」ということです。

しかし、どちらなのか医師にも明確な答えを出せないことが多いのが現状です。

もちろん、このまま治療をしなければ亡くなるとほぼ分かっていることもあります。しかし、治療によって命が助かるかどうか、あるいは助かったときにどの程度障害が残るのか、それは実際に治療してみないと分からないことが多いのです。

いますぐに何か答えを出す必要はありません。しかし、脳卒中は、日本人の死因第4位、寝たきりになる原因の第1位であり、誰がなってもおかしくない病気です。こうした事実を知っておくことが、あなたにとって幸せとは何なのか考える一助になれば幸いです。

談/橋川一雄(はしかわ かずお)
国立病院機構大阪医療センター 脳卒中内科科長兼地域連携推進部長。昭和28年大阪生まれ。昭和51年に大阪大学工学部を卒業後、翌52年に大阪大学医学部に入学。昭和58年に大阪大学医学部を卒業後、同大学附属病院や市立柏原病院で初期研修を受け、昭和61年から大阪大学第一内科・放射線部にて脳卒中の臨床および脳血流SPECTを使った脳循環代謝の研究に従事。平成13年7月に京都大学大学院高次脳機能総合研究センターの助教授となり、福山秀直教授の下でSPECTやPETによる脳機能の研究を行った。ここでは主に認知症を対象としていた。平成18年に国立病院機構大阪南医療センターで脳卒中の臨床に復帰し、平成24年には脳卒中センター部長に就任。平成26年に国立病院機構大阪医療センターに移動となり、現職。元々脳卒中の脳循環代謝が専門領域であったが、最近では認知症にも範囲を広げて臨床に当たっている。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

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