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健康

俺は大丈夫と思ってる人ほど危険な「男性更年期」の話【名医に聞く健康の秘訣】

談/石蔵文信先生(男性更年期外来 医師)

「男性更年期」という病気をご存じでしょうか。更年期といっても、女性の更年期とは違ってホルモンの変化によるものではありません。私は、中高年の男性に特有のうつ症状のことを総称して、男性更年期と呼んでいます。

ここまで読んで、「ああ、それは俺のことではない。俺は大丈夫」、そう思った人ほど危険が迫っているかもしれません。誰でもなりうる「男性更年期」。悠長に他人事としてふんぞりかえっている場合ではないのです。

■定年後勝ち組、定年後負け組

一部上場企業の部長職以上、取締役など、そこそこのポストであった人が定年退職した場合、通常、資産もある、持ち家もある、年金もまあまああるので働く必要に迫られません。というと悠々自適という感じですが、実はそうではないのです。

定年退職するまでは毎日、仕事がありました。つまり“とりあえずやること”があったのですが、退職した途端に何もやることがなくなってしまいます。趣味だったゴルフも会社の付き合いでだったので、退職して仕事のつながりがなくなるとプツンと声がかからなくなってしまいます。

いきなり仕事も趣味(だと思っていた)ことも失ってしまうので、日がな一日暇でしょうがなくなるのです。家にいても、妻に「昼ごはんは?」、2、3時間もすると「晩ごはんは?」と繰り返し、妻はそれまで自由に友人と遊びに行ったり、ランチやお茶に費やしたりしていた、いわば生活習慣のリズムをかき乱されます。

そして、時には、妻の外出先について回るようになります。そのため、妻との関係もぎくしゃくしてきて、最悪の場合、夫婦ともどもストレスから不定愁訴を訴えるようになるのです。さらには、生活習慣病の症状も出てくる年代なので、追い打ちをかけられる形になります。

では、顔を突き合わせていないで、再就職して働きにいけばいいようなものですが、近年、60歳を過ぎた人を、それまでと同じように雇ってくれるところなどないのが現実です。顧問などの名誉職も経費がかかるので、椅子が用意されていません。となると、最低賃金でマンションや駐車場の管理人のアルバイトをするくらいしか選択肢はないのです。

しかし、いかんせん、定年前のプライドが邪魔をします。俺にはそんな仕事はできないと思ってしまう。これがいわゆる定年後負け組の典型です。

一方、定年まで課長クラスくらいで働いてきた人は、そうしたアルバイトに行くことに比較的抵抗がありません。そのため、定年後すぐに仕事に就けて、世間との感覚のずれも少ないので、職場でも家庭内でもトラブルになりにくいのです。こうした方が定年後勝ち組と呼ばれています。

■男性更年期を緩和するオススメの方法

仕事にも行かずにじーっと家にこもっていては、熟年離婚の危機が待ち構えています。では、そうなる前に何をすればいいのでしょう。

定年退職の何年も前から早期にリタイアするなど、第二の人生について考えるのが最善の方法ではあります。しかし、既に退職してしまっている場合、私は自給自足生活をおすすめします。

というのも、定年退職後は年金生活になるので、収入は最盛期の3分の1程度にまで下がってしまいます。できるだけ安価に、かつ楽しく時を過ごせる趣味を持つとよいのです。

家庭菜園をしたら、作物ができます。また、男性の狩猟民族としての本能を満足させる釣りを趣味にしたら、魚も手に入ります。結果として家計の足しにもなるのです。かつ、そのような作物や釣果があると、妻や子、孫から尊敬の眼差しで見られることも夢ではなくなります。そして、それらの収穫物を使って、料理を作れるようになることも妻から自立するための重要なポイントになります。

私は経済的に無理のない範囲で有意義な時を過ごせるよう、患者さんを釣りに誘い出したり、当院の屋上にある家庭菜園で手ほどきをしたりします。また、男性のための料理教室も開催して、行動療法を行っています。

手を差し伸べないとなかなか外に出られない男性が多いのですが、そこを乗り越えなければ未来は明るくありません。日光の下で畑仕事や釣りに没頭したら、自然に身体は心地よい疲労感に包まれて眠りやすくもなります。

定年退職後は、もう会社にとって不要の人になったのだと自覚して、新たな一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。

談/石蔵文信先生
大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授、イシクラメディカル代表。2017年3月で大阪樟蔭女子大学を退職し、3人の孫のための育爺を主に循環器やメンタルケアを始める。現在、自宅の横に常設の料理教室を完成させ(仮称:G/Gハウス)、定年後男性のための料理教室や社会活動の拠点にできるように整備している。

取材・文/わたなべあや
1964年10月生まれ、大阪府出身。大阪芸術大学文芸学科卒業。料理学校で講師をしていた母と医師の叔父に影響を受け、幼い頃より食べることと健康に高い関心を持つ。グルメ、医療関係を中心に執筆中。

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