文/鈴木拓也
日本では、大腸がんや潰瘍性大腸炎といった腸の重病にかかる人は、年々増加の一途を辿っている。慢性的な便秘や下痢に悩んでいる人も多い。
そのためか、何年か前から「腸活」という言葉が流行し始め、今ではすっかり定着している。重い病気になってから医師を訪ねるのではなく、少しでも予防しよう、腸を健康にしておこうという意識の現れだろう。
最近は、医学的な研究も進み、腸活に関する理解は広がった。そうした知見を盛り込んだ書籍『おなかの不調に効く腸の新常識』(大井秀久監修/JAFメディアワークス https://www.jafmw.co.jp/products/intestines/)を今回紹介しよう。
悪玉菌でも有用な側面はある
腸活といえばよく、「腸内細菌には善玉菌と悪玉菌がいて、善玉菌を増やしましょう」という、ざっくりとした捉え方がなされる。
善玉菌には、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などがあり、悪玉菌と呼ばれるものは、黄色ブドウ球菌、大腸菌、ウェルシュ菌などがある。悪玉菌は、腸内で有害な物質を出し、便秘・下痢をはじめ、さまざまな疾患の罹患リスクを高める。
だからといって、「悪玉菌だからダメ」と短絡的に決めつけてはいけないようだ。
本書には、次のように書かれている。
大腸菌にはビタミンB群を産生したり感染症から体を守ったりする働きがあります。また、ウェルシュ菌は、大腸まで消化されずに届いた肉類などのタンパク質を分解して、その栄養素を吸収することができるようにします。(本書39pより)
くわえて、クロストリジウムといった日和見菌も存在し、数としては最も多い。こうした菌は、基本的には人体にとって有用であるが、善玉菌が優勢になると善玉菌になり、悪玉菌が優勢になると悪玉菌へと変化する性質がある。
腸内では、善玉菌、悪玉菌、日和見菌が生存競争をしながら、共存しているような状態だが、割合としては「2:1:7」がベストなのだという。
腸活で目指すのは、この比率を保つこととなる。
バナナは「最強の腸活成分」
「腸活には食物繊維がいい」とはよく聞く話だが、摂ればいいというものでもなく、摂りすぎてかえって便秘や下痢になることもあるという。
ここで知っておきたいのは、食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類に分けられるという点だ。前者は、水に溶けてゲル状となる性質があり、腸内の余分な水分を吸収して、硬い便を軟らかくする作用がある。後者は、水に溶けず水分を取り込んで膨らむ性質がある。そのため便のかさが増して、蠕動運動を促進させ、排便を促す。
こう聞くと、メリットしかないように思えるが、水溶性食物繊維を摂りすぎれば下痢になり、不溶性食物繊維を摂りすぎれば便秘が悪化する可能性がある。
そこで、摂りすぎは避けつつ、便が硬い場合は水溶性食物繊維を、便の量が少ない便秘の場合は不溶性食物繊維を、適切な量だけ摂ることがすすめられている。
2種類の食物繊維を多く含む食材は本書に載っているが、なかでも特筆されているのがバナナ。この果物には、レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)が、多く含まれている。これは、水溶性・不溶性の食物繊維の両方の役割をあわせ持つ、「最強の腸活成分」なのだという。特に下痢傾向にある人には効果が高いというが、だからとバナナばかり食べるのは考えもの。「摂り方や量には気をつけてください」と書かれているとおり、そればっかりというのは禁物だ。
ストレスは腸の健康にも悪影響を及ぼす
腸の健康の良し悪しは、腸内細菌や日頃の食事とは別の要因が絡むことがある。
それは、ストレス。
例えば車の運転中に、迷惑運転や渋滞でお腹の具合が悪くなる人は少なくない。これについて本書では、次の説明がある。
運転時は「事故を起こさないようにしよう」と、過度な緊張状態になります。そうなると、交感神経が副交感神経より優位になります。
交感神経が優位な状態が長く続くと、腸の血液の流れが悪くなったり、腸の神経が過敏になったりして、腸の動きのリズムが崩れてしまい、おなかが痛くなったり、急にトイレに行きたくなったりしてしまいます。(本書12pより)
対策としては、副交感神経を優位にする、つまりリラックスすることが重要になる。方法としては、いったん車を止めて外に出て、深呼吸し、軽く運動するのが有効。「すぐに効果」があるそうだ。
ストレス対策は、運転中だけでなく、日常生活でも心がけることがアドバイスされている。その1つが人間関係のありかた。もし、人間関係でストレスを感じているなら、相手との距離感が近すぎるのかもしれない。近いほど相手に期待したり、見返りを求めがちになってしまうが、他人は思いどおりにならないのが普通。そこで、「適度な距離感を保つ」よう意識する。
もう1つは「気にしない」。相手の言動をいちいち気にするのをやめ、全部は無理でもある程度は受け流すことが肝心。その上で、趣味を持つなど、楽しいと思える時間を増やすことがすすめられている。
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本書には、上で取り上げたトピック以外にも、食生活の具体的な改善法や腸内環境をよくする体操など、腸の健康に関する最新情報が盛り込まれている。おなかの不調に悩んでいる方なら、一読してみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『おなかの不調に効く腸の新常識』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。