「夏バテ」「何だかだるい」「疲れが抜けない」……原因は食事かもしれない

「疲労」で悩む人が急増しているという。原因は様々だが、現代人の“食のあり方”の問題を指摘するのが牧田善二医師だ。課題と対策を聞いた。

解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

昭和26年、北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。久留米大学医学部教授などを経て、平成15年、糖尿病などの生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を開業。

日本リカバリー協会などが行なった最新の調査によると、「疲れている」と回答した人の割合は約8割にものぼりました。

スマートフォンなどIT機器の多用や対人関係のストレスなど、様々な事情はあるでしょう。ですが、多くの日本人が食に対する大きな課題を抱えているのも事実。血糖値を乱高下させ、慢性疲労を引き起こす「糖質過多」の状態に陥っているのです。

疲れたとき、甘い物を食べる人がよくいます。和・洋菓子やあめ玉、ジュース、缶コーヒーなどでほっと一息つくのです。確かに甘い物を飲食すると、瞬間的に元気になります。しかし、肉体的疲労が消えたわけではありません。急激に血糖値が上がり、ドーパミンやセロトニンといったホルモンが分泌され、脳が高揚感に包まれるだけ。要は、疲れが取れたと短期的な錯覚を起こすのです。

しかも、この錯覚を引き起こすのは、甘い物だけではありません。ご飯やパン、麺類といった炭水化物も“糖質の塊”であり、慢性疲労を引き起こす元凶になります。栄養ドリンクやエナジードリンク、夏場に多飲するスポーツドリンクにも糖質はたっぷり。多飲すれば重度の慢性疲労や「夏バテ」につながる可能性が高いのです。

「疲れない体」をつくるためには、とにかく糖質の量を減らすこと。1日の目安は約50g。米なら茶碗1膳分がこれに当たりますが、その他の食べ物からも摂りますので、半膳くらいにとどめたいところ。代わりに、糖質の少ない肉や魚、野菜、豆類、海藻、キノコ類などをたっぷり食べましょう。

白ワインには痩せる効果も

一方で、疲労の予防や解消効果が期待でき、しかも肥満や老化、生活習慣病などの対策にもなる飲食物があります。医学的データや臨床経験に照らし、私は「ミラクルフード」と呼んでいますが、今回はそのうち5つを紹介します。

パン、ビール、ワイン、ジンを摂取した後の血糖値の変化。パンは糖質を多く含むため、食後の血糖値が急上昇している。こうした急激な血糖値の上昇が疲労や肥満の原因に。

ミラクルフード1.ワイン

まずはワイン。上掲のグラフはお酒が血糖値に与える影響を調べた結果です。パンやビールの上昇に比べ、ワインとジンはほぼ変わりません。ウイスキーや焼酎などの蒸留酒もジンと同様でしょう。中でも、赤ワインに多く含まれるポリフェノールには疲労や老化を予防する作用があります。また、白ワインには痩(や)せる効果があることがドイツで報告されています。ただし、甘口は糖質が多いので、辛口の白ワインにしましょう。

赤ワインには疲労や老化を予防する効果、白ワインには痩せる効果が報告されている。晩酌によって、夜の炭水化物(糖質)の摂取量を減らすこともできる。ただし飲み過ぎは厳禁。

ミラクルフード2.鶏むね肉

次に、鶏むね肉です。これに含まれるイミダゾールジペプチドという成分は優れた疲労の軽減作用があります。アスリートも好んで食べています。食べ方は、どの食材も揚げたり焼いたりすると、体に悪い老化成分が増えますので、蒸したり茹(ゆ)でたりしてください。

鶏むね肉に含まれる成分には、疲労の軽減効果が様々な研究で報告されている。蒸したり茹でたりして食べたい。

ミラクルフード3.大豆食品

また、豆腐や納豆、味噌など、大豆食品に多く含まれるイソフラボンという成分は、倦怠(けんたい)感や不安感、イライラなどの症状を和らげる効果があります。豆腐や納豆は加熱しなくても食べられます。

ただし、味噌は塩分が多いので、1日に味噌汁1杯分くらいが妥当な量でしょう。

大豆食品にも倦怠感を和らげる効果などがある。「蒸し鶏」や「冷や奴(やっこ)」は酒のつまみとして最適。

122歳まで元気に生きた女性はワインとチョコが大好物だった

世界最高齢、122歳まで元気に生きたフランス人女性は、赤ワインとチョコレートが大好物でした。チョコは週に1kg食べることもあったそうです。2位の日本人女性、3位のアメリカ人女性も大のチョコ好きでした。私もカカオ成分80%以上のチョコを、ミラクルフードとして推奨しています。

ミラクルフード4.チョコレート

チョコの原料であるカカオ豆に含まれるカカオポリフェノールは、疲労回復はもちろんのこと、様々な健康効果が報告されています。脳の疲労回復や機能改善、動脈硬化や高血圧症のリスクの低減などです。ただし、チョコなら何をどれだけ食べてもいいわけではありません。日本人を対象にした研究では、「カカオ成分が72%以上のチョコを1日25g」食べたところ、非常にいい結果が得られましたので、ひとつの目安にしてください。

カカオ成分が70~80%以上の「高カカオ」のチョコは市販品も多い。1日25g(板チョコ半分程度)を目安に。

ミラクルフード5.ブルーベリー

眼精疲労に効果があることで知られるブルーベリーも、体調を整える効果や全身の疲労回復効果が期待できます。この他、海外の研究では、血管や動脈壁の機能改善や記憶力の低下抑制などの効果が報告されています。ブルーベリーにはビタミンやミネラルも豊富ですが、それらの栄養素は加熱によって損なわれるので、生の果実をそのまま食べるのがいいでしょう。

ブルーベリーは眼だけでなく、全身への良い効果が期待できる。生の果実をそのまま食べたい。

疲労の放置が病気の原因に

現代人の疲労は、様々な要素が複雑に絡まり、もはや「どこが疲れているのかわからないけど、ひどく疲れている」といった様相を呈しています。しかし、「たかが疲れ」と甘く考えてはいけません。人間の体はすべてが繫(つな)がっていて、一部の不調は気づかぬうちに全身に悪影響を及ぼし、慢性疲労をさらに深刻化させます。肥満や老化を早めるばかりか、糖尿病や心疾患、脳卒中、がん、認知症などあらゆる病気の原因にもなります。こうした“負の連鎖”を断ち切るためにも、日々の食事のあり方には充分に注意してください。

なお、今回取り上げた研究結果の詳細やその他のミラクルフード、食べるべき物や食べてはいけない物などについて、拙著『疲れない体をつくる最高の食事術』でより詳しく紹介しています。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」といいますが、健全な肉体は「最高の食事術」がもたらします。ぜひ手に取ってみてください。

取材・文/牧田善二 撮影/井上一樹 図版作成/稲岡聡平

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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』

現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

『疲れない体をつくる最高の食事術』
牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)

 

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