日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)
悲鳴を上げない「腎臓の疲れ」に要注意
脳や筋肉の疲れよりタチが悪い
一口に「疲れ」と言っても、さまざまな種類があります。
スタンフォード大学でアスレチックトレーナーを務める山田知生氏は、著書『スタンフォード式疲れない体』の中で、疲れには大きく3つの種類、すなわち「脳神経系由来の疲れ」「筋肉の疲れ」「内臓の疲れ」があると区分けしています。
たとえば、難しい問題について考えたり、長時間の会議に参加したり、あるいは、ストレスが溜まっているときなども、「あー、頭が疲れた」と感じるはずです。
激しい運動をすれば、筋肉が疲れます。逆に、デスクワークばかりで運動不足の状態が続くと、首や肩、背中がこります。これもまた、一種の筋肉の疲れです。
一方、内臓の疲れで自覚しやすいのが胃腸です。食べすぎたり、消化の悪いものや傷んだものを口にしたりすれば、胃もたれ、吐き気、腹痛、下痢などの胃腸症状がてきめんに現れます。
これら3つの疲れは、お互いさまざまにリンクしています。
適度な運動をしたことで「筋肉の心地よい疲労感」に包まれていれば、思考も前向きになり、内臓も活発に働きます。
でも、内臓が疲れていて体調が悪ければ、いいアイデアも浮かばないし、運動をする気にもなりません。頭も筋肉もネガティブな状態にし、悪い慢性疲労を蓄積させるという点で、内臓の疲れはタチが悪いのです。
内臓の疲れのなかでも、最も注意が必要なのが「腎臓」です。
腎臓は、胃腸のようにすぐに悲鳴を上げないけれど、とても疲れやすい臓器です。そして、腎臓の疲労は全身の疲労を呼びます。
みなさんが慢性疲労を蓄積させている裏には、腎臓の劣化があるかもしれません。
腎臓は空豆のような形をしており、背中側の左右に2つあります。
ストレスで胃がキリキリ痛んだり、緊張して心臓がドキドキしたりすれば、いやでもそれら臓器の存在を意識しますが、腎臓は「沈黙の臓器」と言われるくらいおとなしいので、どうしても軽視されがちです。
しかし、腎臓は非常に大事な「解毒」という役割を担っています。
私たちの体には、ただ生きて呼吸をしているだけで老廃物や毒素が溜まります。それらを体の外に出さなければ、疲れるどころか命を失ってしまいます。
その老廃物や毒素はどうやって体外に出ていくのかといったら、腎臓で濾過されて「尿」として排泄されるのです。
尿は便よりもずっと神秘的で複雑
意外に思うかもしれませんが、私たちの健康を守るための、老廃物や毒素の最も代表的な排出ルートは「便」ではありません。便に含まれるのは、食べ物のカスと腸内細菌の死骸、消化酵素などにすぎません。
専門的には、口から肛門までを「消化管」と呼びます。そして、この一続きの管は「体外」と捉えられています。食べ物のちくわの穴は外界に接しており、決してちくわの中身ではありません。それと同じようなものです。
食べ物、水、空気、消化液などがその管の中を通り過ぎ、途中で必要な栄養素や水分が「体内」に取り込まれ、残りの不要物が便として排泄されるだけ。便の排泄システムは、案外単純なのです(図6参照)。
一方、尿は便よりもずっと神秘的で複雑です。体内で発生している老廃物や毒素を腎臓が濾過し、それら不要物だけを尿として体外に出しているのですから。
「すっきり快便」は気持ちのいいものですが、消化管の働きが悪くて便が排泄されなくてもお腹が張るくらいの話です。ところが、腎臓の働きが悪くて老廃物や毒素を尿に出せなくなったら即、命に関わります。
このように、腎臓は最強かつ究極のデトックス(体内に蓄積した有害物質を排出すること)機能を有しており、毎日せっせと働いてくれています。しかし、おとなしい働き者ゆえに、疲れていてもなかなか弱音を吐きません。
文句を言い出したときには相当に弱っており、回復不可能なことも多いのです。
腎臓病には大きく、急性と慢性があります。急性腎臓病は、急激に症状が現れる反面、適切な治療を行うことで多くが治癒します。一方、慢性腎臓病は、静かに進行していき、気づいたときには手遅れになりがちです。
まずは腎臓が大事な臓器だということを覚えておいてください。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。