文/鈴木拓也

画像はイメージです。

厚生労働省の統計によれば、日本人の死因のトップは「がん」。1981年より変わらず、首位を独走している。また、一生の間にがんと診断される確率も、男女差はあるが約半々となっており、身近な病気でもある。

医学の進歩で、必ずしも死に直結するものではなくなりつつあるが、重い病気であることに変わりはない。それだけに、どの病院のどの医師に診てもらうかが重要になる。

そうした病院・医師選びの秘訣を教えてくれるのは、メディカル・インサイト代表取締役の鈴木英介さん。著書『後悔しないがんの病院と名医の探し方』(大和書房 https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10136540.html)のなかで、関連情報を詳しく解説する。

自身のがん種の専門医を選ぶ

ひと口に医療機関と言っても、大規模な大学病院もあれば、個人の開業医が営むクリニックもあって実態は様々。

しかし、がんについては明確な選択基準があると、鈴木さんは言う。

それは第一に、「がん診療連携拠点病院」かどうか。これは、診療体制が一定の要件を満たした病院について厚労省が指定したもので、現在は全国400拠点近くある。その中から、通院できる距離にあるか、罹患しているがんの専門性があるかなどを勘案して決めるのが、確実性は高いと説く。

そして、病院選びと同じくらい大事なのが、誰を主治医にするか。これも基準があって、「あなたのがん種の専門医」を選ぶのが正解。

専門医とは各学会が認定している資格で、例えば日本消化器外科学会には、消化器外科専門医の認定制度がある。もし、早期の胃がんか大腸がんに罹っているなら、この専門医を選ぶことになる。専門医のリストは各学会のウェブサイトから検索できるので、お住まいの地域から絞り込むといいだろう。

医師にコミュニケーション力は必須

鈴木さんは、主治医として適任かどうかは、専門医の資格とは別の要素があるとも記す。

それは、コミュニケーション力。

いくら腕利きの医師であっても、この能力に問題があれば、トラブルに発展することは少なくないという。

本書には、鈴木さんが実際に見聞きした例がある。その医師は、入室したがん患者に見向きもせず、MRIの画像とにらめっこしたまま、「これは、もう一度、今度はもっと深くえぐり取らないといけないね」と言い放った。同席した鈴木さんが所見に意見すると、医師は不機嫌さも隠さず、捨て台詞を吐いたそうだ。

ここまでひどいのは稀な例にしても、適切さを欠いたコミュニケーションは、治療結果にも影響を及ぼしかねない。そこで鈴木さんは、その点で問題はないかを判定する3つのポイントを挙げる。

その1つが、「あなたが『わかる』言葉で話してくれるか?」。医師が専門的な医療用語を連発すると、当然ながら患者の理解の範囲を超えてしまう。これでは、入院をすべきか、手術を受けるべきかといった重要な判断ができなくなる。逆に、患者が話についてきているかどうかを適宜確認しながら、「わかる」言葉で説明する医師は、「良医」であるとする。

医師ならどう選択するか切り返す

医師と患者のコミュニケーションの一環として、最近は「シェアード・ディシジョン・メイキング」という考え方が一般的になってきた。

訳せば「共同意思決定」。治療の選択肢が複数ある場合、医師任せではなく、共に考えて決める方法を指す。一見、理想的なソリューションに思えるが、課題もあるという。それは、医師が、それぞれの選択肢のメリットとデメリットを提示するも、どれを選ぶかは患者に決めさせるというスタイルが少なくないこと。鈴木さんは、次のように指摘する。

選択を委ねられると、選択の責任が生まれます。この責任を一身に受け止められる(受け止めたい)患者さんと、そうでない患者さんがおり、後者の患者さんの場合、選択を丸投げされると途端に困ってしまうということになります。実際のところ、自身だけで決め切れる患者さんはそう多くはなく、やはり専門家たる主治医の意見は欲しいという方が大半でしょう。(本書139pより)

仮に選択を丸投げしてくる医師であっても、うまい対処法がある。それは、「先生ご自身が私と同じ状況だったら、どの選択肢を選びますか? それはなぜでしょうか?」と、切り返すこと。鈴木さんは、この質問を投げかけることで、理想的なシェアード・ディシジョン・メイキングに近づくとアドバイスしている。

患者自身もヘルスリテラシーをもつ

本書では、患者自身がある程度の医療情報を把握する「ヘルスリテラシー」の必要性にも言及されている。

例えば「怪しげな自由診療の見分け方」。クリニックが掲げる、保険不適用の治療法の中には、いかにも効果がありそうな謳い文句のものが少なくない。その怪しさを見抜けるかどうかも、立派なヘルスリテラシーである。

鈴木さんは、保険が適用されないのは、効果・安全性について厚労省のお墨付きを得られていないのと同義だと指摘する。そして、保険が効かないから高額、高額だから効果は高いに違いないという思い込みからの脱却を訴える。

もう1つ気をつけたいのが、「食品やサプリの派手な宣伝文句」。鈴木さんは、がんに効き目をもたらすと立証された食品・サプリメントは「ありません」ときっぱり。一方で、「がんが消える」など、目を惹くキャッチフレーズが世の中には氾濫している。

それらは完全には否定しないものの、「『ダメもと』でちょっとずつ試してみる」スタンスで付き合うことがすすめられている。

* * *

本書にはこのほか、余命宣告や標準治療についての考え方、高騰する治療費やドラッグロスの問題など、がんにまつわる多くのトピックにも触れられている。がん治療の最前線を知って最善の判断をしたいという方に、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『後悔しないがんの病院と名医の探し方』

鈴木英介著
定価2200円
大和書房

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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