文/印南敦史
『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(川嶋 朗 著、アスコム)の著者は、統合医療SDMクリニックの院長。
「統合医療」とは、西洋医学、東洋医学、補完代替医療などを組み合わせて行う療法を指すもの。つまりはその考え方を軸に、それぞれの患者にもっとも適した、より効果のある方法を最優先して治療にあたっているということだ。
私は、患者さんにはなるべく多くの選択肢を持つ権利があり、その情報を提供するのが医師の役割だと考えています。そのためには、西洋医学では埋められない部分でほかの手段、つまり統合医療も必要なのです。(本書「はじめに」より)
注目すべきは、著者が治療の手始めとして「その患者さんがどのように生きてきたのかをとことん聞き出す」という点である。
それは、「病気は自分がつくっている」という持論を持っているから。つまり根底には、「患者さんが口にする後悔こそ、病気になった原因である可能性が高い」という考え方があるのだ。
たしかに病気になってしまった人には、必ず原因があるもの。とくに生活習慣病やがんなどは、生活習慣の乱れや考え方、生き方が原因になっていることが多いだろう。そこでクリニックを訪れる患者さんには、「なにか普段の生活で間違っていたと思うことはないですか」と必ず聞くことにしているというのである。
暴飲暴食、不規則な生活、運動不足、冷え、人間関係のストレスなど、原因も多種多様。なかには、「母親を恨んでしまった」「職場の人間関係で苦しんでいた」ことを悔やんでいる人もいたそうだが、いずれにしてもそうしたなんらかの原因が、やがて大病の発症へつながってしまうというケースもあるわけだ。
もしかしたら、「そんなばかな」と思われるかもしれない。だが、体と心は連動しているものだ。著者も多くの患者さんの相談にのるなかで、そのことを強く実感したという。
体と心は互いに大きく影響し合っています。病気を完全に治そうと考えるなら、体と心を統合して考え、両者にアプローチできるような治療を行わなければならないのです。
体と心の両者にアプローチして原因がわかれば、「体や心をいたわらなかった自分」や「母親を恨んでしまった自分」「職場の人間に悪感情を持ってしまった自分」を悔い改めることで、根本的な治療が可能になります。(本書「はじめに」より)
病気の根本的な原因は患者さん自身にあり、それに気づけるのは本人のみ。だからこそ、それに気づいて自分を治せる患者さんは、(体と心を別々のものとしてしか考えていない)西洋医学の常識では信じられないような奇跡を起こすこともあるというわけだ。
とはいえ当然のことながら、それは魔術のようなたぐいではない。それどころか、体の機能と連動したものである。そもそも、体がもともと持っている「生きる力」が阻害されるから病気になるというのだ。
たとえば、がんについても同じことがいえるようだ。
ちょっとむずかしいかもしれませんが、ご説明しましょう。
受精卵の驚異的な成長や分化に、あるがん遺伝子は必須ですが、その発現は誕生とともに減退あるいは休止します。「休む」ということは、その細胞が何もしなければ読み込まれない位置に隠れて存在しているということです。
ところが、私たちが生活していくなかで、ストレスを抱えたり、過剰な紫外線を浴びたりすると、読み込まれるはずのないものが読み込まれてしまうことがあります。これが、がんの発生のきっかけになるのです。(本書61ページより)
私たちの体は37兆個もの細胞から成り立っているが、その細胞のひとつの遺伝子に対し、毎日100万回ものアタックがあるという。一方、体内では遺伝子の修復システムも働いているため、たとえがん細胞が読み込まれそうになったとしても、ほとんどの場合、その遺伝子は瞬時に修復される。
しかし、一部は修復しきれず、平均してひとつの遺伝子異常が残ります。体には37兆個の細胞があるのですから、37兆個の遺伝子異常が起き得ます。そして毎日3000〜5000のがん細胞が発生するのです。ところが、その発生したがん細胞は、すみやかに免疫システムが消去してくれるのです。(本書62ページより)
こうしたダイナミックな生態反応、免疫システムの結果が「健康」と呼ばれるわけだ。そして、なんらかの理由で歯車が狂い、異常な細胞が撲滅されずに出てきたものが、がん細胞だということである。
なお代謝も、できてしまったがん細胞を撲滅する機能を持っているという。細胞レベルで見ると、どんなに入れ替わり速度の遅い人でも3年経てば入れ替わるそうなのだ。
このように、人間の体には、優れた免疫機能や代謝機能が備わっているのです。ですから、仮に病気になったからといって、あきらめないでほしいのです。私は人の細胞の活発な入れ替わりや、優れた免疫機能を考えれば、病気は治らないはずはないとさえ思っています。(本書53ページより)
したがって、「治らない病気」といういいかたは、その医師の思い上がりなのだとすら著者は主張する。本来であれば、「現時点で、私は治す方法を知りません」というべきなのだと。
逆にいえば、医師に「治らない病気」だといわれても、あきらめてはいけないということだ。なにより重要なのは、自分自身の「生きる力」なのだから。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。