人や物の名前が出てこない、会話に「あれ」や「それ」が増えた、ぼんやりと考えがまとまらない。
歳を重ねるごとにそんなことが増え、「認知症になるのでは……」と不安にかられる人も多いでしょう。とはいえ、話題の脳トレにチャレンジしても効果もよくわからないし、なかなか日常の習慣にできないと断念してしまいがち。

もし、図版を見るだけで認知症予防ができるとしたら? 眼科専門医の平松類医師が提唱する「脳知覚トレーニング」は、図版を見て有効視野を鍛えて脳全体を活性化する方法です。このトレーニングは、多くの科学的エビデンスに基づいています。ハーバード大学、フロリダ大学をはじめ、世界トップクラスの研究機関で、脳全体の活性に有効だと実証する試験結果が報告されています。

暗記や考えるトレーニングのような手間はまったくなく、1日3分もあればできるものなので、面倒くさがりの人も続けられるはず。そのうえ、脳知覚トレーニングは4週間続けることでその効果は10年間持続するというのもうれしいポイント。10年後の健康な脳のために、4週間がんばってみませんか。

今回は、平松類医師の最新著書『認知症が予防できるドリル』(SBクリエイティブ)から、4週間チャレンジの1日目の例をご紹介します。これなら続けられる! と思えるほど手軽なトレーニングです。

文/平松類

有効視野とは?

私たちは何かを見るとき、眼球というレンズで捉えた情報を脳で処理することで初めて「見えた」と認識しています。つまり「見る」ことの大部分は、脳が司っているのです。医学的な定義での「視野」とは、静止したまま片目で物が見える範囲のことを言います。ただの範囲なので、それ以上でもそれ以下でもありません。

一方、有効視野とは、周りに何があり、何が起こっているか、なんとなく判別し、適切に対処できる視覚の範囲とその能力を指します。ただ見えているだけではなく、「その範囲内のことは適切に対処できますよ」と言える範囲が、有効視野です。

なぜ、目から脳を鍛えられるのか

認知症は、脳の病気です。原因はさまざまですが、要は「脳の働きが悪くなること」で発症します。「脳知覚トレーニング」で認知症が予防できる理由、それは、有効視野が広がると脳が活発に働かざるを得なくなるからです。私たちの脳は常に多くの情報を処理しています。そして、その情報の多くは目から入ってきています。したがって、有効視野が広い人と狭い人では、同じ経験や物事から得られる情報量に大きな差があるのです。年を取ると、人にぶつかることが増えたり、人の気持ちに鈍感になったり、見落としや勘違いが多くなったりする人は多いですよね。これは、若い人と同じ物を見ていても、そこから得ている情報が極端に少ないためです。

加齢とともに有効視野が狭まり、脳に入る情報が少なくなると、脳は怠けてしまいます。脳が怠けてしまうと、ますます有効視野は狭くなります。こうした悪循環が脳の老化を進行させ、ひいては認知症を呼び寄せてしまうのです。ですから、「脳知覚トレーニング」によって有効視野を保つ、あるいは広げることは、脳を若く保ち、認知症を予防するためのとても本質的なアプローチです。

ところで、脳をいつもフル回転させていると、なんだか疲れてしまいそうですよね。でも心配することはありません。有効視野が広くなると、真っすぐ前を見ながら周辺に意識を向ける、「分散的」な脳の使い方も鍛えられます。つまり、ただ大量の情報を得られるようになるだけではなく、脳を効率的に使う力も身につくのです。例えば、道を歩いていて急にクラクションを鳴らされたとき。有効視野が広い人は、音に意識を向けながら周りの視覚情報にも目を向け、危険が迫っていないかを適切に判断することができます。一方、有効視野が狭い人は、「クラクション」という情報を処理することに精一杯で、周りの視覚情報を「分散的」に処理できません。

よく「あの人は視野が広い」と比喩として言うことがありますが、ただの例えではないのです。有効視野が広くなると、今まで気づかなかった町の変化や世の中のニュース、自然の彩りが目に飛び込んでくるようになります。そうすると心も広くなり、物事を色んな視点から捉えられるようになります。この「視野の広さ」こそ、いつまでも若々しい脳でいるための秘訣と言えるでしょう。

脳知覚トレーニングに挑戦!

では、脳知覚トレーニングのやり方を説明します。
まずは、下にあるクイズを読んでください。次に目と写真の距離を20cmに近づけます。中央にある「LOOK!」というマークを両目で見て、そこから視線を動かさないで周りのマークを見ます。そしてクイズに答えます。つい視線をずらしたくなるかもしれませんが、それでも大丈夫です。その後でもう一度、真ん中を見て周りのマークを確認してみてください。答えがわかるかどうかではなくて、判別しようとすることが大切です。

ちなみにこの赤・緑2つの円は、気づかないレベルで毎週少しずつ大きくなっているので、あなたの有効視野も一緒に成長していきます。余裕がある人は、各円の違うマークがあるゾーンをパッと素早く判別してみましょう。スピードを意識すると、より効果的です。慣れてきたら、1日3分以上取り組んでも問題ありませんが、体調に異変を感じたら、直ちに中断してください。

脳知覚トレーニングのルール

(1)明るい場所で、目と写真の距離を20cmに近づける
通常の読書と同じレベルの明るさで取り組んでください。目と写真の距離は、大体20cm になるようにしましょう。

(2)「LOOK!」マークから視線を動かさない
視線が動いてしまっても効果に影響はありません。でもクイズを楽しむために、できるだけ中心から視線を動かさないようにしましょう。

(3)まずは1日3分、2週間続けてみる
慣れるまでは、クイズが難しく感じるかもしれません。あまり気負わず1日3分、まずは2週間を目標に続けてみましょう。

(4)矯正視力で行う
普段使っているメガネやコンタクトレンズなどで、視力を矯正した状態で行いましょう。

QUESTION

Q1:赤の円上で1つだけ違うマークは、A〜Dのどのゾーンにある?

Q2:赤の円上で1つだけ違うマークは、何のマーク?

Q3:緑の円上で1つだけ違うマークは、A〜Dのどのゾーンにある?

▼答え
Q1:D
Q2:ぶどう
Q3:A

*  *  *

1日3分見るだけで認知症が予防できるドリル
著者/平松類
SBクリエイティブ 1,430円

平松類(ひらまつ・るい)
眼科医/医学博士 愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。受診を希望する人は北海道から沖縄まで全国に及ぶ。専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評でメディアの出演が絶えない。現在YouTube「眼科医平松類チャンネル」(登録者22万人以上)で情報発信を行っている。 NHK『あさイチ』、TBSテレビ『ジョブチューン』、フジテレビ『バイキング』、テレビ朝日『林修の今でしょ! 講座』、テレビ東京『主治医が見つかる診療所』、TBSラジオ『生島ヒロシのおはよう一直線』、『読売新聞』、『日本経済新聞』、『毎日新聞』、『週刊文春』、『週刊現代』、『文藝春秋』、『女性セブン』などでコメント・出演・執筆等を行う。 著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』 『その白内障手術、待った! 』(時事通信社) 、『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。

 

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