文 /内野勝行
30万部突破『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』を監修し、脳神経を専門としてこれまで約1万人の患者を診てきた内野勝行先生の著書『脳のおそうじスープ』から、衰えてきた脳に必要な「脳のクリーニング」についてご紹介しましょう。
40代にさしかかると、多くの人が「物忘れ」がひどくなったと感じることでしょう。約束事をうっかり忘れてしまう。人の顔はわかるのに、名前が出てこない。身に覚えのある方も多いことでしょう。「そう、あれ、あれ……、えーと、何だっけ」というセリフが口癖になっていませんか。
ほかにも家事や仕事でミスが増えるなど注意力が低下したり、会話のなかでうまく言葉が出ずに頭の回転が鈍くなったと感じているかもしれません。
このような症状は年齢を経るにつれて、進行していきます。実は、こうした脳の老化にも、「アミロイドβ(ベータ)」は深く関係しているのです。
前回お話したように、アミロイドβ(ベータ)は脳の神経を蝕んでいきます。アミロイドβ(ベータ)は歳を重ねてから、急に溜まりだすものではありません。若い頃から蓄積しています。ただ、若いうちは比較的スムーズにアミロイドβ(ベータ)が排出されますが、年齢とともにその能力が低下します。
そして、多くの人が歳を過ぎたあたりから、蓄積量が増え、脳神経にも影響が及ぶようになるのです。
逆に考えれば、「脳のゴミ」さえスムーズに排出できれば、物忘れや頭の回転が鈍くなるのを最小限に防げるというわけです。
「もう、歳だから」と、ため息をついてあきらめる前に、「脳のゴミ」をおそうじして、もう一度脳を若々しく保つためのアクションを起こしてみませんか。
脳のおそうじ40代から始めても遅くない!
認知症を発症している方の割強はアルツハイマー病患者、つまり、アルツハイマー型認知症です。
この病気は、脳神経細胞が減って脳が萎縮していく病気です。初期段階では、脳の「海馬」という部位の脳神経細胞が減って萎縮しはじめ、症状が進むと、脳全体が萎縮して知能や身体機能も衰え、最終的に死に至ることもあります。
アルツハイマー病の初期症状として、物忘れなどが発生する理由は、海馬が記憶の貯蔵庫だからです。
脳に入ってきた情報はいったん海馬に送られ、その情報が必要か不要かを判断し、必要な情報だけが脳の大脳皮質という部位に送られ、長期的な記憶として定着します。海馬が萎縮して機能が低下すると、この選別機能も低下し、必要な情報を覚えられなくなったり、逆に不要な情報を記憶として定着させてしまったりするわけです。
問題は、明らかな症状が出る頃には、脳がだいぶ縮んでしまっていることが多く、現時点ではそれを治す手だてがないということです。
しかし、最近では進行をゆるやかにする薬があるため、初期の段階で正しく診断し、治療により進行を遅らせることはできます。
アルツハイマー病の発症原因は明確ではないのですが、「アミロイドβ(ベータ)の溜まり病」などと表現されることもあるほど、発症原因の最有力候補として挙げられているのが、アミロイドβ(ベータ)です。
個人差はありますが、アミロイドβ(ベータ)の蓄積から約15~20年でアルツハイマー病が発症するといわれています。
つまり、認知症が70歳で発症すると考えると、アミロイドβ(ベータ)を溜めない、あるいは排出を促す対策は、45歳から講じたほうが良いということになるわけです。
アルツハイマー病が発症するメカニズムに関してはいまだわからないことが多く、「これを行えば、完全に認知症は防げる」とは言い切れません。
ただし、早くから脳のおそうじを行えば、アルツハイマー病の発症時期を先送りにできることは間違いありません。