夫が65歳になったのを機に、家事を担当。10種類以上の食品が摂れるよう配慮された朝食が、日本語教育者の健康を支える。

【嶋田和子さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、パン、野菜サラダ(レタス・ピーマン・胡瓜・トマト・ツナ)、ウィンナーソーセージとほうれん草のソテーと目玉焼き、ブルーベリーヨーグルト、紅茶、カマンベールチーズ。パンは『サンジェルマン』の「胡桃と五穀の田舎パン」を愛食。野菜サラダには市販の胡麻ドレッシングをかける。
ひと仕事終えた日には、晩酌を楽しむことも。日本語教育で長く関わってきた能代(秋田県)の地酒、『喜久水酒造』の「能代」に酒肴は韓国海苔。30年前の教え子・ペ オソンさんの会社が製造しているお気に入りの韓国海苔(下画像参照)だ。
「宋家一品」(プレミアム味付け海苔)1缶480円(8切54枚、全形6.75枚分)。
「おいしい粉 キムチパウダー」600円(35g)。
五星コーポレーション/埼玉県さいたま市桜区町谷4-14-15 問い合わせ:0120・046・030
ホームぺージの販売サイトでも購入可。
朝7時半起床、朝食は8時頃。「食事の時、夫と話をしながらお腹の底から笑うのも健康法」と嶋田和子さん。夫の紀之(としゆき)さんは料理を習ったことはなくすべて我流だが、10分ほどで朝食の用意はできるという。

外国人観光客が急増する中、令和4年の外国人留学生の数も23万人を超える。文化や社会構造が異なる留学生にとって、日本語の習得は容易なことではない。そんな社会背景の下、40年にわたり日本語教育に携わってきたのが嶋田和子さんである。だが、最初から日本語教師を目指したわけではない。

幼少の頃からスポーツが大好きで、大学に入ってからはテニスを楽しんだ。専業主婦時代はマラソンにも打ち込む。写真は津田塾大学1年の時、テニス仲間と(左が嶋田さん)。

昭和21年、東京に生まれた。津田塾大学英文科卒業後、外資系銀行に就職するが、結婚を機に退職して専業主婦になる。

「また働きたいと強く思っていたので、家事や育児をしながらも、再び働くための準備はずっとしていました。日本語に興味をもったのは、子育てを終えてカウンセラーになるために心理学の勉強をしていた時。英語と日本語、言葉が違うことでカウンセリングが微妙に違うんです。そこで“空気のような存在”である日本語が本当の意味でわかっていないことに気づいたのです」

『イーストウエスト日本語学校』の七夕祭でアジアの留学生と一緒に。行事だけでなく、俳句や伝統芸能を通してその背後にある日本人の物の見方まで教えるのも日本語学校の役割だ。同校の副校長だった50代の頃。

30代半ばのことである。新聞で見つけた日本語教師養成講座を受講。すぐ教壇に立ち、幾つかの日本語学校を経て、平成2年から『イーストウエスト日本語学校』勤務。副校長まで務めたが、平成24年に退職し、『アクラス日本語教育研究所』を設立した。日本語教育に携わる指導者の育成と支援を行なうためである。

喜寿を迎えた今も、書斎にこもることが多い。『アクラス日本語教育研究所』の仕事や、趣味のメール句会もここで楽しむ。「パソコンの前で命尽きても悔いはないわ」と笑う。
令和4年度文化庁長官表彰を受けた。日本語教育の質の向上や留学・就労・生活の情報共有など、業界全体の発展に貢献した功績が認められた。2列目左から3番目が嶋田さん、前列中央が文化庁長官・都倉俊一さん。

母の教えを守って健康優良児

現場主義の嶋田さんは、今も研修や講演で国内外を飛び回る。

「けれど勤めてから40年、一度も病欠なしという健康優良児。それは母の教えを守っているからです」

101歳で亡くなった母の口癖は3つ。ひとつは“朝は金、昼は銀、夜は銅”。つまり、健康のためには3食の中で朝食が最も大事だということ。ふたつ目は一日に30品目(種類)の食品を摂ること。3つ目は大豆製品を欠かさぬこと。

嶋田家は変則家事態勢。65歳で退職し、東京大学の大学院生となった夫の紀之(としゆき)さんが、今は家事一切を担当している。妻より比較的、時間に余裕があるからだ。

「私より夫のほうが母の教えに忠実。質・量ともに満点です」

当然のことながら、大豆製品も欠かさない。最後に和子さんの趣味である俳句を一句。

〈グルメとは縁なき暮らし冷や奴〉

母の教えを守り、大豆製品を欠かさない。夜によく登場するのが「おぼろ豆腐」(左)で、鰹節と薬味をかけて。「煮大豆」はこのままおやつにも。近所の『越後屋豆腐店』(電話:03・3333・5477)が贔屓の店だ。

留学生は民間大使、日本の言葉と文化を伝えたい

東京都杉並区で始まった、子どもを対象にした日本語教室でボランティアさんと一緒に、子どもたちと触れ合う嶋田さん。昨年、日本語学習支援ボランティア養成講座からスタートし、今年1月に教室開始にこぎつけたという(『広報 すぎなみ』5月15日号より)。

言葉は文化である。高等教育や専門知識の習得などのために来日する留学生だが、伝えるのは知識だけではない。

「人と社会との繋がりのある授業・学校作りが大切です。通常の授業以外に能や落語といった伝統文化と、その背後にある日本人の物の考え方を知り、また住民と触れ合うことも重要です」
 
外国人が日本語や日本文化を学ぶ目的は、日本を理解するためだけではない。自文化と異なる文化を学ぶことで自文化をよりよく理解し、その文化を支えている存在としての自分自身をよりよく見つめることにも繋がるという。

教え子のレメネツ アンナさんの依頼で、ロシア人の日本語教師向けに行なったモスクワ講演旅行。テーマは“新しい日本語教育をめざす~楽しく、効果的な授業の進め方~”。彼女は東京で留学生を支援する会社を起業。

日本語学校は地域の活性化の拠点ともなり得る。ボランティア活動や町内会の盆踊り大会、また小学校・中学校などの交流を深めることで日本文化を肌で知り、それが地域の発展にも通じるのだ。

「せっかく日本に来た若者を日本嫌いにしてはいけません。ひとりの留学生の後ろには10人の外国人がいるといいます。彼らは大切な民間大使なのです」

40年間、日本語教育に携わってきた人の言葉は重い。

多数ある著書の中から『ワイワイガヤガヤ 教師の目、留学生の声』(右)は、日本語教師が語る留学事情と日本語学校の実情を解説。『外国にルーツを持つ女性たち』は、日本で暮らす外国人女性らの生の声を紹介。

※この記事は『サライ』本誌2023年12月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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