第二の人生で得た“モノ”を作る喜び。「クロスアート行燈」制作は、バランスのいい朝食と日課の運動が支えている。

【福島哲郎さんの定番・朝めし自慢】

前列中央から時計回りに、ご飯、黒豆、味噌ピーナッツ、漬物(蕪の酢漬け)、ヨーグルト(バナナ・黒ごまきな粉・オールブラン)、季節の果物(林檎)、生姜昆布、田作り、味噌汁(しめじ・えのきだけ・若布・小松菜・油揚げ・豆腐・出汁昆布・おろし生姜・おからパウダー(下画像参照)、中央は焼き魚(塩鮭・ブロッコリースプラウト・ミニトマト・かぼす)。ご飯は米1.5合に小さじ7杯ぐらいの胚芽押麦を入れた麦ご飯。蕪の酢漬けと田作りは喜代子夫人のお手製。焼き魚は日によって、がんもどきなどの煮物に替わることもある。ランチョンマットは亡き母の絹の帯を仕立て直したもの。もちろん福島さんの作だ。
不足しがちな食物繊維が手軽に摂れる「おからパウダー」5袋(1袋100g)セット1000円。
さとの雪食品/徳島県鳴門市大津町矢倉字六の越63 電話:0120・456・480
前日の夜に昆布と煮干しを水に浸け、味噌汁の出汁を取っておく。翌朝、煮干しは取り出すが、昆布はそのまま味噌汁の具として食す。
定年退職後、味噌汁を作るのは福島さんの担当に。煮立ちばなに親指大の生姜をすりおろして、味噌汁の汁で鍋に流し入れるのが福島流。体が温まるという。
5時30分起床。庭の手入れなどをして朝食は8時半頃。「植物が好きで、定年後に庭園管理士の資格も取りました」という福島さんと喜代子夫人。昼は軽くパンや麺類、夕方6時頃からの晩酌後、夕食は魚中心の和食だ。

古い着物地から放たれる淡く、仄かな温かみのある灯り。不要となった着物が蘇り、新しい命を得て、幻想的な空間を生み出す。名づけて「クロスアート行燈」。作者は、工芸作家の福島哲郎さんだ。

「着物の柄は特徴的でモダンなものも多い。これに照明を当てるときれいに映えるのです。個々人の大切な思い出を残す、ひとつの方法でもあるでしょう」

昭和17年、宮崎県生まれ。宮崎工業高校インテリア科を卒業後、上京。竹中工務店系列の建設会社に就職し、主に内装を手掛ける。

「上皇陛下の即位の礼や大嘗祭での設えのお手伝いもさせていただきました。私が考案したクロスアート行燈にも、会社員時代の経験や知識が生かされています」

クロスアート行燈は平成18年、定年退職後に作り始めたものだ。

竹中工務店のグループ企業である内装関連会社に在籍の40歳の頃。「積算や営業、現場監督もこなしました。企業戦士といわれていた頃で、そりゃ働きましたよ」

「当初は憧れであったステンドグラスに挑戦したのですが、ステンドグラスはすでに著名な作家も多く、今からでは到底追いつけない。そこでガラス部分を色とりどりの和柄の布に変えるアイデアを思いついたのです。人の真似ではなく、自分独自の作品を制作したいという強い思いがありました」

ステンドグラスのガラス部分を和柄の布に変えたら唯一無比のものができるのではないか。この発想から生まれた「クロスアート行燈」。古い着物地が奏でる、優しい和の灯りだ。

今では国内外で展示会を開く他、フランスやドイツなどの美術専門誌や機内誌にも掲載。日本や台湾の切手にも採用されるなど、その実績が認められている。

2016年、作品3点が日本郵便と台湾の中華郵政公社の切手になり、「台北2016国際切手展」に出展。台湾の切手は国立故宮博物院の“翠玉白菜”などとともにシート状に。

肉より魚の食生活

会社員時代は仕事ひと筋、家事を手伝うことはなかった。ところが定年となり、

「まず、朝の味噌汁は私が作るようになりました。茸類に若布、油揚げ、豆腐、青菜と具だくさんで、これだけでもおかずになる。さらに最後におろし生姜、食べる直前におからパウダーを入れるのが、わが家自慢の味噌汁です」

味噌汁だけでも食物繊維は万全。主菜に加えて、常備の黒豆や味噌ピーナッツ、ヨーグルト、果物と栄養バランスは申し分ない。

「私は肉より魚党で、夕食に肉類が登場するのは週に1回ほど。晩酌が楽しみですが、酒肴も魚や野菜が中心ですね」

学生時代は柔道2段の腕前で、今も毎日の運動を欠かさない。まず、朝はチューブを持ってのスクワットを20回、夕方には5kmの速歩散歩、就寝前にはつま先立ちを100回。これら日課の運動とバランスのいい朝食が、古布での行燈作りと健康な毎日を支える。

「クロスアート行燈」の和の光は、今や世界に広がっている

作業場には気に入って集めた古布が並ぶ。「作品は高さと幅、奥行きのバランスが大事。なおかつ柄が最も美しく見える光源の高さを調節します」と福島さん。
作品販売や制作の問い合わせは『和風照明 工房ふくしま』電話:090・4527・4579

日本唯一、いや世界唯一の「クロスアート行燈」。独自のアイデアで生み出された技法だけに、先達がいない。すべて独学だ。

「試行錯誤の連続でした。それは今も続いており、各地を飛び回って気に入った古布を探す傍ら、技能の向上を図る日々。いまだ作品を完璧だと思ったことはなく、さらに新しさを追求しています」

光をうまく拡散させるために布の裏に和紙を挟んだものを樹脂板に貼り、最も柄が美しく見える光源の高さをミリ単位で調整。樹脂板と布を接着する方法も独自に生み出し、特許も申請済みだ。樹脂板の厚さは0.5mm。和紙と布を貼った樹脂板は、配管用の塩ビパイプに巻きつけて円塔にする。

「これを思いついた時には膝を打ちました。道具類もしかり。独自の改良を加えていますが、いずれにも内装関連会社にいた時の経験が生きています」

作品には通し番号をふっていて、それはとうに千を超えた。時代を超えて出会った古布と、先駆者の独自の技が織りなす行燈の光。その柔らかな灯りは、世界へと広がっている。

知人から持ち込まれた刺繍と染めの着物で作った最新作1238番。高さ60×幅17×奥行き10cm。背面(下画像)には「対い蝶(むかいちょう)」の家紋を生かしている。この作品で制作日数は1週間ほど。5万~6万円。小品なら5000円~。

※この記事は『サライ』本誌2023年2月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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