夫の大病をきっかけに減塩生活を実践。出汁のきいた料理と野菜たっぷりの食事が、創作人形作家の気力と健康を支える。
【寺園清子さんの定番・朝めし自慢】
その人形を観た時の衝撃は今も忘れない。人形一体一体が繊細でありながら、圧倒させられるほどの力強さを放っている──。それが、テレビのある番組で観た高橋節子さんの人形だった。
「結婚して専業主婦となった私は、何か新しいことを始めたいと思っていました。そこで迷うことなく高橋先生が主宰する『ラ・バンボーラ』の門を敲いたのです。1985年のことでした」
と、創作人形作家の寺園清子さんが当時を振り返る。
ラ・バンボーラとは、イタリア語で“人形”の意味。1980年に人形作家、高橋節子さんが生み出した創作粘土の会である。
同会で学ぶこと5年。免状授与式で講師の資格を得たものの、その後も一期生で師と慕う久保田百合子さんに師事。子育てがひと段落した40歳手前で本格的に人形創りを始め、請われて人形教室を開いたのは43歳の時である。
創作人形作家の醍醐味は何か。
「私の作ったお人形を観た人が、感動してくれるのが一番嬉しい。お教室の人形展を開催した時のことです。入院中の夫君を見舞う途中、毎日通う老婦人がいらっしゃいました。『博龍』(下画像)に心の中で“こんにちは”というと“こんにちは”と返してくれるというのです。お人形に“心”を通わせてくださいました」
寺園家の食事革命
順風満帆だった寺園家に激震が走った。健康優良児だった夫の晃二さんが今年1月、突然、大動脈乖離で倒れたのだ。一命はとりとめたものの、2か月の入院生活。これを機に、減塩生活を敢行。まず、料理はすべて出汁をきかせ、薄味に。これが減塩につながる。
「最初はもの足りないけれど、必ず慣れます。最近では外食の味が濃く感じるようになりました」
と、晃二さん。二番目は、ウィンナーなどの肉加工品は意外に塩分が多い。必ず茹でて塩抜きする。三番目は野菜たっぷりの食事だ。朝食にはふたりで丼いっぱいの野菜サラダを食すが、ドレッシングは直接かけずに別皿に入れ、つけて食べる。これも減塩対策のひとつだという。
以上3点が、病後の寺園家の食事革命である。
趣味で始めた人形創りが、今ではライフワークとなった
寺園さんの肩書、“人形作家”の前に“創作”とついているのは、創始者の高橋節子さんが絵を立体化する、独自の粘土人形を“創作”したからである。
「この材料となる粘土は、石を細かく粉状にしたものに接着剤など薬品を混ぜた石粉粘土です。基本は粘土の扱い方で、耳たぶほどの軟らかさにこねたら、伸ばし棒で伸ばして厚さは自由自在。粘土に触っていると無心になれます」
その後、造形・乾燥・研磨・着色・ニス塗りと工程は続き、一体作るのに最低3か月は要する。粘土人形の魅力は単に人形を作るだけでなく、着せる洋服や髪形などスタイリストやヘアメイクのセンスも問われることだ。
「粘土に組み合わせる素材も多様で、洋服なら透明水彩絵の具で粘土に着色してもいいし、布で作ってもいい。また、布と粘土の併用もあります。決まり事に縛られるのではなく、各自が新技法を編み出せるのも魅力のひとつです」
寺園さんの手になる創作人形は「第49回 美術の祭典 東京展」(10月7日~14日 東京都美術館)に出品された。
※この記事は『サライ』本誌2023年11月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )