日本と中国の文化交流に携わって半世紀。腕回し体操の後、お腹を空かして食す2種のホットサンドの朝食が、元気の源だ。
【中野暁(なかの・さとし)さんの定番・朝めし自慢】
ヨットで遣唐使の航跡を辿りたい──この思いがすべての始まりであった。日中国交正常化が実現した1972年のこと。当人、中野暁(さとし)さんが語る。
「私は千葉大学で美術教育を専攻しながらヨット部に所属し、卒業後、ヨットスクールの講師をしている時に立てた計画です。中国の領海に入る許可を得るために相談に伺ったのが、日本中国文化交流協会でした」
両国間に国交が回復したとはいえ、まだ個人がヨットで航海できるような状況ではないと、この冒険計画は断念。が、中国への思い断ち難く、翌年から同協会で働くことになるのである。
日本中国文化交流協会は1956年、仏文学者の中島健蔵や作家の井上靖、作曲家の團伊玖磨、演出家の千田是也ら錚々たる文化人が中心となり、両国間の友好と文化交流を促進するために創立された民間団体である。
「創立当初は80人だった会員は、国交正常化が実現した年には3000人に達し、協会の活動は活況を呈した。そんな中、’73年に国交正常化の慶祝行事として挙行された大相撲中国場所に同行したのが、私の初訪中となりました」
以来半世紀、事務局長や常務理事を経て現職。文学や演劇、美術、書道、音楽、舞踊など第一線で活躍する文化人を団長に、中野さんの訪中は250余回に及ぶ。
1食たりとも疎かにしない
この3年に亘るコロナ禍で、生活は一変した。
「代表団の相互往来はできず、今は自宅と事務局を往復する日々。それでも、規則正しい生活の中で楽しみも増えました」
そのひとつが食事である。朝食は2種類のホットサンドが定番。ひとつはツナや前夜の残りのカツ、卵やハムといった惣菜風サンド、もうひとつはジャムが中心の甘めのサンドだ。これらを焼くのは中野さんの担当。ヨット部時代に食事当番を経験しているので、料理は苦にならないという。
昼食は外食。事務局のある東京・丸の内界隈には世界各国の料理店があり、その日の気分で選ぶ。夕食は和食が多く、肉か魚のたんぱく質に加えて野菜料理が2品。
「この年齢になれば、1食たりとも疎かにはしたくないですね」
この思いは、生き方にも通じる。
腕回し体操で健康を維持し、両国間の友情を次世代につなぐ
中野さんには10年間、毎日欠かさぬ健康法がある。腕回し体操だ。
「私が65歳になった2012年、東洋医学の先生から身体の要である肩と腰を柔らかくすれば免疫力が高まり血流も良くなると、この腕回し体操を教わったのです」
今では朝晩それぞれ2000回ほど回していて1日4000回、所要時間は各40分ほど。1畳分の空間があれば、いつでもどこでもできるのが利点だ。年5〜10回あった中国出張でも欠かしたことはない。お陰で10kgの減量に加えて風邪もひかず、寝違えもなく、鼾(いびき)も治まった。さらに肝臓の数値も安定しているという。
’22年は日中国交正常化50周年。
「尖閣問題に続き、コロナ禍で今はオンラインによる交流しか叶わない。再開できたら“気を通い合わせて”の交流を展開し、両国の次世代の人たちの“雰囲気”を良くするのが私の役目です」
中国との文化交流には広い視野に立った相互理解と、遠くを見てゆっくりと構える姿勢が必要だ。常に風を読み、風を待たなければならないヨットマンとしての経験が生かされるに違いない。
※この記事は『サライ』本誌2023年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )