呼吸は自律神経の働きや全身の筋肉の緊張、さらにはメンタルにまで関係します。
呼吸が浅くなると、これらにネガティブな影響を及ぼし、腰痛や肩こりをはじめとしてさまざまな身体の不調をおこすことがあります。
誰でもできる簡単な呼吸法をおこなって呼吸を楽に深くし、心身をリラックスさせましょう。
正常な呼吸と浅い呼吸
ふだん自分の呼吸について意識している方は少ないと思いますが、意識せずともほぼ自動的に呼吸がおこなわれて我々の生命は維持されています。
言うまでもなく、呼吸が止まってしまえば生きてはいられませんが、呼吸が浅くなってしまうだけでも、様々な不調を起こしてしまうことがあります。
正常な呼吸では1分間に12~18回なのに対し、浅い呼吸の人は1分間に20回以上呼吸しているといわれます。
また吸い込む空気の量に違いがあり、正常な呼吸では1回あたり約500mlですが、浅い呼吸では約250mlほどになってしまうといわれます。
吸った空気の一部は気道にとどまってしまうため、浅い呼吸だと肺に取り込まれる空気の量は正常な呼吸の1/3以下になってしまうそうです。
呼吸で取り込まれた空気は、肺によって酸素が血液に取り込まれ、体中の細胞に届けられ、脳や臓器、筋肉などが働くエネルギーを生み出します。
しかし呼吸が浅くなると、全身の細胞に十分な酸素が運ばれなくなってしまいますので、さまざまな機能が低下します。
よく見られるのが、だるさ、肩こり、腰痛、頭痛、頭がぼーっとする、意欲の低下、不安や抑うつなど。また免疫機能が低下してしまうこともあります。
もし上記のような症状があれば、あなたの呼吸は浅くなっているのかもしれません。
浅い呼吸と腰痛
浅い呼吸が腰痛の原因にもなると聞くと、意外に思う方も多いでしょう。
もちろん腰痛にはさまざまな原因があり、呼吸が浅くなるだけで腰痛になるというわけではありません。
より正確にいうなら、「腰痛になりやすくなったり治りにくくなったりする原因のひとつ」になる、ということです。
呼吸は、主に横隔膜の働きにより肺が膨らんだりしぼんだりすることでおこなわれますが、肺を格納しているろっ骨もその一部をになっています。
ろっ骨は左右12対24本の骨が、カゴのように肺や心臓などの重要な臓器を収めて守っています。
それぞれのろっ骨とろっ骨の間には『肋間筋』という筋肉があり、ろっ骨を拡げたり締めたりすることで肺を動かし、呼吸に関わっているのです。
運動不足や長時間のデスクワーク、不良姿勢、睡眠不足、ストレスなどがあると、この肋間筋やろっ骨周囲の筋肉が固くなり、ろっ骨の動きが悪くなってしまうことがあります。
ろっ骨の動きが悪くなるとは、すなわち呼吸が浅くなってしまう、ということなのです。
そしてろっ骨の動きが悪くなると、次のような影響があらわれ、腰痛が起こることがあるのです。
■背中や腰などの筋肉が固くなる
■背骨の動きが悪くなり、腰に負担がかかる
ろっ骨は背骨につながっていますので、ろっ骨が固くなると背骨(胸椎)が固くなります。
また脊柱起立筋など背骨の周囲の筋肉もろっ骨に付着しているものが多く、それらの筋肉も固くなってしまいます。
背骨やその周囲の筋肉が固くなると、背中から腰にかけて血行が悪くなり、疲労が回復しづらくなったり、老廃物がたまって発痛物質という痛みの原因となる物質が増えてしまったりします。
それだけでも腰に痛みがおこりますし、さらに腰や背中の筋肉にトリガーポイントと言われる発痛点が生じたりすると、そこから強い痛みがおこってしまいます。
上の図は、背骨を支える脊柱起立筋のトリガーポイントの好発部位と、そこから痛みが起こる範囲(赤い部分)を表しています。
脊柱起立筋が腰からろっ骨につながっているのがわかると思いますが(上図右)、これらの筋肉が固くなったり血行が悪くなったりすると、このような痛みがおこるのです。
このような痛みをトリガーポイントによる筋筋膜性疼痛症候群と言います。
トリガーポイントについては本連載ではおなじみですが、詳しくは以下のページをご覧ください。
腰痛・坐骨神経痛のトリガーポイント治療(https://www.re-studio.jp/backpain/pg122.html)
そしてこのような状態になると、ますますろっ骨の動きが固くなり、さらに周囲の筋肉が固くなり……、という悪循環に陥ってしまいます。
呼吸が浅くなると脳が痛みに弱くなる
呼吸が浅いと十分に酸素がとりこめず、全身の血行が悪くなります。
それにより脳にも、意欲が減退したり、落ち込みやすくなったり、といった影響があらわれてきます。
とくに、脳には“疼痛抑制系”という痛みをやわらげる機能があるのですが、この働きが悪くなってしまうと、痛みを感じやすくなったり、痛みが治りにくくなったりして慢性化してしまうのです。
このようなことから、呼吸が浅くなると腰痛がおこりやすく、治りにくくなってしまうのです。
ろっ骨と背骨をゆるめる呼吸法(ストレッチ)
呼吸が浅くなってしまっても、簡単な呼吸法(ストレッチ)をおこなうことで深い呼吸を取り戻すことができます。
この呼吸法をおこなうことで、ろっ骨や背骨、背中や腰の筋肉をゆるめて正常な深い呼吸がしやすくなります。
それによってたくさんの酸素を身体に取り込めるようになり、腰痛や肩こりなどの不調を改善することができます。
以下を参考におこなってみてください。
※ストレッチをする前に、クッションや座布団、丸めた毛布などをご用意ください。ヨガマットをお持ちでしたら、半分ほど丸めた状態で使うといいでしょう。
呼吸法(1)
背中にクッションを当て、仰向けになります。
クッションの位置は上の画像のようにわきの下ぐらいの位置で、両手を横に開きます。
この位置に当てることで自然にろっ骨が開きます。
そのまま身体の力を抜き、楽に大きく深呼吸をしてください。
なるべくろっ骨を大きく開くように息を吸い、楽に吐いていきます。
ゆっくりと10回から20回ほどおこなってください。
※この姿勢で顎が上がり過ぎてしまったり、頭が床につかない場合は枕を入れておこなってみましょう。
※首や肩、腰などに痛みやその他症状がある場合、この姿勢をとると症状が悪化することがありますので、注意しておこなうか、またはこのストレッチをおこなわないでください。
呼吸法(2)
次に、呼吸法(1)の姿勢から膝を立て、ゆっくりと左右に倒しながら楽に呼吸を続けます。
10回~20回ほどおこなってください。
足だけを左右に倒すのではなく、脇腹のあたりから大きくひねるように動かし、ろっ骨が動くようにしてください。
呼吸法(3)
次に、片側に膝を倒したまま、ゆっくり大きく深呼吸をします。
この姿勢で深呼吸をすることで、普段あまり動かないろっ骨の部分に息が入って動くような感覚があると良いです。
5回~10回ほどおこなってください。
片側が終わりましたら反対側も同じようにおこないます。
最後にまた(1)の姿勢に戻って脚を伸ばし、楽に深呼吸を繰り返します。
5回~10回おこなってください。
終わったあとはクッションをはずして仰向けになってみましょう。
ストレッチをする前より呼吸が楽になったり、背中や腰が楽になったりする感覚があると良いでしょう。
このストレッチをおこなうことで痛みが出たり、または痛みのためにこのストレッチ自体ができないようでしたらやめてください。
この記事があなたの腰や脚の痛みを改善する一助になりましたら幸いです。
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また以下の記事でも様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
ぜひお読みください。
腰痛改善ストレッチ ろっ骨をゆるめると腰痛が良くなる【川口陽海の腰痛改善教室 第37回】(https://serai.jp/health/389404)
腰痛に効くツボはココ! 中殿筋をテニスボールでゆるめて腰痛改善【川口陽海の腰痛改善教室 第87回】(https://serai.jp/health/1069105)
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文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
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