日本人の口内環境は今、大変なことになっています。なんと、「日本人の8割は歯周病」という調査結果が出ているのです。歯周病は今や他人事ではありません。そこで、歯科医・坂本紗有見先生の著書『歯周病、口臭、むし歯を防ぐ 1分間「殺菌ベロ回し」』から、殺菌力を持つ「だ液」を使って口の中の悪玉菌を殺し、善玉菌(乳酸菌)を増やすことで、歯周病・口臭・むし歯を予防する方法についてご紹介します。
文・坂本紗有見
だ液は「美口」を保つための大きなカギを握っています。天然の殺菌作用を持ち、善玉菌を残して悪玉菌だけをやっつける働きを持つだ液は、口内環境を守るために不可欠なものです。ところが、ベロが十分に使えていないなどの理由により、だ液の分泌量が不足すると、口内環境は徐々に乱れていき、トラブルの原因となります。
現在、日本人のおよそ8割を悩ませている歯周病もそのひとつ。歯周病は歯を失うリスクだけでなく、さまざまな病気のもとになることをご存知でしょうか?
そもそも歯周病とは何かというと、これは細菌の感染によって起きる炎症性疾患です。口のなかにはもともと500〜700種類の細菌が常在しており、歯磨きが十分ではなかったり、糖分を過剰に摂取したりすることで発生するプラーク(歯垢)には、1ミリグラム中に10億もの細菌が含まれています。
このプラークが歯と歯ぐきの境目にある「歯周ポケット」に入り込むと、そこに多くの細菌が停滞し、歯肉が炎症を起こす原因になります。これが歯周病の始まりです。
初期の歯周病になったとしても、歯科医院へ定期的に通ってケアすれば問題ないのですが、もしもそのまま放置してしまい、症状が進行すると、歯周ポケットはどんどん深く広くなってしまいます。そして「歯槽骨(しそうこつ )」と呼ばれる歯を支える土台の部分が溶け始め、歯がぐらぐらと不安定な状態に陥ります。さらに症状が悪化すると、歯が抜け落ちてしまうことにもなりかねません。
厚生労働省の調査によれば、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数は331万5000人で、そのうち男性が137万3000人、女性が194万2000人と、女性のほうが罹患(りかん)率が高いことがわかっています(平成26年度調査)。
また、年代別の有病率では、20歳代で約7割、30〜50歳代は約8割、そして60歳代は約9割と、年齢を重ねるごとにそのリスクは増していることがわかります。日頃から歯周病予防に努めることの大切さが、よくわかるデータと言えるでしょう。
なお、日本臨床歯周病学会によれば、歯周病を進行させる原因には次のような行為があります。
1 歯ぎしり、くいしばり、かみしめ
2 不適合な冠や義歯
3 不規則な食習
4 喫煙
5 ストレス
6 全身疾患(糖尿病、骨粗しょう症、ホルモン異常)
7 薬の長期服用
歯周病の何よりおそろしいところは、自覚症状が少なく、症状が静かに進行していく点です。とくに初期の歯肉炎の段階では、痛みもほとんどないため、気づいたときには重度の症状に進行しているケースが多々見られます。歯周病が時に、メタボリックシンドロームやペリオドンタルシンドロームのような「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と呼ばれるのはそのためです。
まずは、日々のケアを怠らず、ベロ回し体操で口内環境を整え、万病のもとである歯周病やむし歯の予防に努めましょう。
「殺菌ベロ回し」をやってみよう!
いつでもどこでも、手軽に実践できる「殺菌ベロ回し」。
さっそくチャレンジしてみましょう。
べロを伸ばして、歯ぐき「表面」を右上から左下へ 、
ゆっくり円を描くようにぐるりと回す(上6秒、下6秒)。
【ポイント】
●毎日3回、食事のあとに行うこと
●1セット=1分間かければ十分
●口は閉じた状態で!
●ゆっくり!! しっかりと!
* * *
「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と呼ばれる歯周病は、初期段階では自覚症状がないため、罹患していることに気がついていない方が多いそうです。歯は健康の基礎となる大切なもの。定期的に歯科医院を受診したり、セルフメンテナンスを行ったりして、歯周病予防をしていきましょう。
『歯周病、口臭、むし歯を防ぐ 1分間「殺菌ベロ回し」』
坂本紗有見著(アスコム社)
坂本紗有見(さかもと・さゆみ)
東京歯科大学卒業。銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック81院長。口の中の菌叢(きんそう/口内フローラ)を開発した。歯周病を予防する矯正歯科クリニックでは、最新の検査機器や国内外のサプリを導入するなど、常に新しい医療を提供している。日本美口協会代表理事、日本アンチエイジング歯科学会常任理事。日本成人矯正歯科学常務理事、日本矯正歯科学会認定医。