口内環境が健康寿命を左右する、ということをご存じだろうか。口は、食べ物の入口であるが、病気の入口にもなりうる。全身の健康をも左右する「歯周病」の原因と予防法を知り、健康維持のために日常生活を見直したい。
かつて歯槽膿漏と呼ばれていたせいか、歯周病は高齢者特有の病気と捉える人がいる。しかし、歯周病は10代にも見られ、加齢とともに増加の一途をたどる。50代後半ともなると罹患者は5割近くになり、日本人の約7割が罹っているとする統計もある。
80歳になっても自分の歯を20本保とうという運動をする8020推進財団の調査によると、日本人が歯を失う原因の第一が歯周病だ。軽度の症状は、歯ぐき(歯肉)が腫れたり、歯を磨くと血が出たりする程度だが、重度になると歯がぐらぐらして、やがて抜け落ちる。
歯科医師の野本秀材さんは、抜けるまで放置される要因として早期発見の難しさを挙げる。
「虫歯と違い、歯周病には痛みがありません。ゆるやかに進行する“静かなる病気”で、歯が揺れてきたと気づくころには、土台の骨は相当溶けてしまっているのです」
歯周病の原因となるのは、数種類の歯周病菌だ。
「口の中には約400種類の常在菌がいて、その中に歯周病菌がいます。歯を磨かないと、歯の表面に歯周病菌が付着、瞬く間に増殖。プラーク(菌の塊)となって歯ぐきとの境目や歯周ポケット(歯と歯ぐきの溝)の中に落ちていく。歯ブラシの毛先が届きにくくなり磨けず、炎症を起こして歯周病になるのです」
虫歯は、菌の毒素や酸によって歯が溶けるもの。一方、歯周病は、菌が歯や骨を溶かすのではない。歯周病菌を排除しようとする体の免疫反応が高まり、結果的に自分の組織を壊す。初期のうちに原因となるプラークやバイオフィルム(菌の膜)を取り除けば、歯周ポケットもなくなり、改善される。
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さらに歯周病は、全身の健康にも深く関わっていることが明らかになっている(図参照)。
「歯周病は“糖尿病の合併症”のひとつともいわれます。糖尿病になると、免疫細胞の働きが低下して感染症に罹りやすくなるためです。また、歯周病の人は糖尿病を悪化させやすい」
さらに、心疾患や脳疾患など、循環器系の病気との関連もある。
「それは、口の中にいる歯周病菌が全身を巡るためです。たとえば、歯周病の人が歯磨きをすると歯ぐきから血が出ることがあります。歯周病菌が血流にのって心臓まで行くと、心臓の内膜にプラークとして付着する。それが心内膜炎です。また、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。高齢になると、誤嚥をしやすくなるものですが、そこに歯周病菌がいなければ、たとえ肺炎になっても死亡するリスクは少ないといわれています」
野本さんはさらに、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる「健康寿命」と口の健康との密接な関係を指摘する。
「健康であることの大前提は、栄養を口から摂れるということ。口の機能がきちんとしていないと、食べることができません。たとえ病気になって入院しても、口から食べられるかどうかで、回復力が違ってきます。近年、健康寿命が注目されています。歯周病のリスクを減らせば、他の生活習慣病の予防にもつながるでしょう」
さあ、さっそく下の【歯周病チェックシート】で、セルフチェックしてみよう。
●歯周病チェックシート
□ 歯ぐきに赤く腫れた部分がある
□ 口臭がなんとなく気になる。
□ 歯ぐきがやせてきたみたいだ。
□ 歯と歯の間にものがつまりやすい。
□ 歯を磨いた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
□ 歯と歯の間の歯ぐきが鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている。
□ ときどき歯が浮いたような感じがする。
□ 指でさわってみて、少しグラつく歯がある。
□ 歯ぐきから膿が出たことがある。
以上、いかがだろうか。判定基準は下記のとおり。
●[チェックが1~2個]の方は、歯周病の可能性があります。歯磨きの仕方を見直し、歯科医院で診てもらいましょう。
●[チェックが3~5個]の方は、初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行しているおそれがあります。早めに歯科医師に相談しましょう。
次回は「歯周病を防ぐ5つの習慣」をご紹介する。ぜひあわせてお読みいただきたい。
※この記事は『サライ』本誌2016年11月号の「大人の歯磨き基本のき」より転載しました。記事内の肩書き等は取材時のものです(取材・文/大津恭子)