文/小林弘幸

「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。

【小林式処方箋】夜9時以降の夕食は、魚や鶏肉をメインにする。

遅くなれば遅くなるほど控えめに

前にも述べましたが、夕食の理想は、就寝の3時間以上前、できれば夜9時までに「好きなもの」を「ゆっくり食べる」ことです。しかし、仕事が立て込んでいるビジネスパーソンにとっては、思うようにいかないことも多いでしょう。

ではどうするか。

夕食の「量」と「質」で調整するコツを掴むしかありません。次の2つを意識してください。

1.腹五分目

2.メインは魚や鶏肉

夕食は、副交感神経の働きを高め、腸内環境を整える必要があります。食べたものが小腸を通り過ぎるまでに必要な時間は、5時間ほど。この時間を逆算すると、夕食は、夕方5時以降であれば、早ければ早いほどいいということになります。

それができないのであれば、なるべく腸に負担をかけないように食べるしかありません。

そのひとつの手段が「腹五分目」です。「食べ足りないなあ」というところで、グッと我慢します。そうでもしないと、次の日の朝、体重が増えていることは確実。腸内環境も乱れてしまいます。

慣れないうちは物足りなく感じるかもしれませんが、コツはゆっくりとよく噛んで食べること。

メインはタンパク質や消化の良さなどのことを考えると、魚や鶏肉にしたいところ。肉や魚を食べることで、意外と満足感を覚えるはずです。

遅い時間には絶対NGにしたほうがいいものもあります。脂っこい食事、例えば唐揚げなどの揚げ物やラーメンは、消化しにくいというだけでなく、腸に負担がかかってしまいます。

こうしたメニューは避け、魚や鶏肉などの良質で脂の少ないタンパク質、野菜を中心にしてください。9時を過ぎたらおいしい刺身+和食、という生活はいかがですか?

食べる順番も大切です。

まずはコップ1杯の水で腸に刺激を与え、続いて野菜。次にメインの魚や鶏肉などのタンパク質をとってください。ご飯などの炭水化物は、いちばん最後。しかも、いつも以上に量は少なめにしてください。

量と質に留意すれば、遅い時間の夕食のデメリットも、最小限に抑えることができるでしょう。

炭水化物を安易に抜いてはいけない

炭水化物の量は常に控えめにしたほうが良いのですが、だからと言って、まったく食べないのは考えものです。

世の中では、糖質制限の行き過ぎた「炭水化物抜きダイエット」が流行っていますが、医学的にも、自律神経の見地からも、こうしたダイエットはお勧めできません。私の患者ならすぐにやめさせます。

炭水化物を摂取しないと、体の中で必要な栄養素を吸収するのに欠かせない「グリコーゲン」が不足します。するとグリコーゲンを補おうとして、肝臓に急激な負担がかかってしまうのです。

これが続けば、慢性肝炎のような状態になってしまうことも予測できます。

消費者庁の「栄養素等表示基準値(2015)」によれば、1日に必要な炭水化物の量は、320グラムです。大まかに言うと、炭水化物から食物繊維を除いた量が、糖質量。

例えば、ご飯1杯(150グラム)の糖質量は55グラム、うどん(ゆで麺)1玉(250グラム)で52グラム、ラーメン(生麺)1玉(120グラム)で64グラムです。

含まれている糖質の割合は異なりますが、だいたい1日170グラム程度の糖質量が必要だと考えてください。

ご飯3杯+αくらいですね。

このうち、糖質の120〜150グラムは脳で消費されます。残りは、全身に酸素などを運ぶ赤血球や筋肉のエネルギー源として消費されるのです。

つまり糖質は、生命を維持するために絶対に欠かすことのできない栄養素。炭水化物を抜けば、脳の働きが悪くなるだけでなく、肉体にもさまざまな支障をきたすことでしょう。

もちろん、よく言われるように朝、昼、夕と、毎食ドカドカ食べていては、やはり糖質過多になってしまいます。

そこで、夕食が遅くなった場合は、夕食そのものの量を減らす。夕食をドッカリ食べる日は、昼食の量を減らす。こうやって1日の中でバランスを調整するのが、健康かつ太らないための食事術です。

ただし、「減らす」のと「食べない」のは異なります。腸内環境を整えるためにも、必ず何かは口にしてください。

『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。

 

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