2000人を超える中高年のキャリア開発に携わってきた、ミドルシニア活性化コンサルタントの難波 猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)より、これからの時代に中高年がいきいきと働くためのポイントをご紹介します。
文 /難波 猛
本 人・上司・人事の三者が団結して努力することが必要
「働かないおじさん」が生き生きと「働く(成果を出せる)おじさん」になるには、本 人・上司・人事(経営)の三者が団結して努力することが重要です。残念ながら、実際にコンサルティングや研修でご相談をいただく現場では、一致団結とは程遠い「三すくみ」のような言動を見掛けることも少なくありません。
◆本人側の視点
「上司や人事が分かってくれない」「今更頑張っても無駄」
◆上司側の視点
「やる気がない本人に問題がある」「今更言っても無駄」
◆人事側の視点
「現場の上司がマネジメントすべき」「余計なことを言うと現場の士気が下がる」
直接言葉に出すかは別として、「問題は自分ではなく相手にある」「言っても無駄」という他責的・自己防衛的なスタンスが見え隠れする企業ほど、お互いの信頼関係が毀損していて問題が深刻化している傾向があります。こうした状況に対して、何の分析も戦略も構想も持たずに「皆で前向きに頑張ろう!」「自主的にチャレンジしよう!」と言っても、掛け声倒れに終わります。
拙速に問題解決に走らず「なぜ、こうした三すくみが生まれるのか?」「嘘をつい ていないとすれば、各自どう現状を見ているのか?」に関して、それぞれに本音を開 示してもらい、正確に状況を把握することが最初のステップになります。
人は、それぞれの立場での視点(パラダイム)や物語(ナラティブ)を持っています。 同じ事象や問題でも、立ち位置が異なると見え方も異なります。
例えば、実際にミドルシニア再活性化の依頼を受けたコンサルティングの現場で は、三者がこんな視点(物語)を持っていました。
本人側の視点(物語)
「どうせなら、良い評価をされて気持ちよく働きたい」
「自分なりに言われた通りに頑張ってきた。評価する側がそこを見ていない」
「いきなり主体的になれ・挑戦しろ・自分の頭で考えろ、と上司や経営陣から言われ ても何をどう頑張れば良いか分からない。手の平を返された感じがする」
「主体的に挑戦しろと言われても、失敗すれば怒られて人事評価が下がる。正直者が損をする」
「人事は、長年勤めてきた自分たちの給与やポストを下げる話ばかり(定年再雇用や役職定年など)。処遇が下がった分しか働きたくない」
「評価の低い自分が何を言っても、上司の見方も人事制度も変わらない」
こう書くと、ずいぶん身勝手だ! とか、そんなことだから評価されないんだ! などと思われるかもしれません。
が、大多数のミドルシニア人材は、自分のできる範囲でできる限りのことを実直にやっていて、
「最近、急に上司の言うことが変わった」
「挑戦しても失敗したら評価が 下がる」
「人事制度は、今後の処遇低下ばかり」
「何を言っても評価が変わらない」という現状認識を持っています。
その意味で、彼らのほとんどは事実に基づき論理的に行動をしていると言えるかもしれません。 (ただし、自分の行動で状況を改善する、という視点が抜けているケースが多くあります)。
上司側の視点(物語)
「どうせなら、部下が気持ちよく働いて成果を出してほしい」
「言われた通りではなく、ベテランなんだから自分の頭で考えてほしい」
「変化の激しい時代に、手取り足取り正解を教えられない」
「成果が出ていない事実と、厳しい評価は伝えたので、後は本人次第」
「人事も、中高年のやる気や処遇を下げるような制度ばかりで勘弁してほしい」
「やる気に乏しく変化の見込みも低い年上部下と付き合う時間は取りにくい」
上司は当然「働かないおじさん」が成果を出してくれることを期待しています。
しかし、これがやはり難しい。「働かないおじさん」 化する原因は色々あります。
「本人のスキルや働き方自体が古くなってしまった結果、従来の延長線や上司が指示をするだけでは本質的な解決に繋がらない」、「周囲の環境や世の中が変わった結果、 スキルにマッチする仕事自体が消滅してしまっている」等のケースもあります。上司側も「何が正解か」が分からない場合も増えています。
また、日本企業に多いのは、「管理職がプレイングマネージャーで忙しすぎて、部下と向き合ったり、部下の育成を考える時間が取れない」という問題です。「上司が 時間をかけて真剣に向き合えば改善できる可能性がある」と分かっていても、時間がそもそも取れない。そういう企業は数多くあります。
上司は上司で「管理職としての仕事を、部内の誰よりも忙しい中で自分なりにせいいっぱいやっている。問題は本人と人事」という現状認識を持っています。 (ただし、自分の面談手法やリーダーシップスタイルを改善する、部下の本音を聴く、という視点が抜けていることは多くあります。)
人事側の視点(物語)
「どうせなら、社員が気持ちよく働いて成果を出してほしい」
「言われた通りではなく、自律的に自分の頭で工夫してほしい」
「部下をマネジメントするのは、現場上司の役割」
「研修や人事制度など、やる気や能力を高める仕組みは用意している」
「原資やポストに限りがある中で、全員に平等な処遇はできない」
「活躍が難しい人は、自分で気付いて去ってほしい」
「人事は裏方なので、現場に指図や介入をし過ぎると逆効果になる」
経営陣も人事も、社員に嫌がらせをしたいわけではありません。やはり本人に成果を出してほしいと考えているのです。しかし、これはこれでやはり難しい。
「全社員にとって都合のよい給与体系や人事制度」など存在しませんから、全員が納得することは難しいです。
特に最近は、年功序列的な賃金体系ではなく「成果や貢献に基づいたメリハリが効いた人事制度」によって、目まぐるしく激しい環境変化に適応できる人材集団を目指 す場合が多く、「成果が不足していて、今までの処遇が高い」ミドルシニア人材は、 手の平を返された感覚を持ち易くなります。
人事側は「現状では最善と思われる制度を会社は用意しました。上手く活用して、 管理職も本人もベストを尽くしてください」という現状認識になります。 (ただし、現場の問題に深く踏み込む、上司の不足している点を指摘する、という視点は抜けていることもあるでしょう。)
責任のなすり合いでは先に進めない
「本人」「上司」「経営陣や人事」の三者の視点は各論では間違っていませんが、それぞれ「どうせなら、良い状態であってほしい」と願いつつ、「最後は相手次第で、 自分ではどうにもできない」というジレンマを抱えています。
その結果、三者とも「自分以外の二者が、できる範囲で改善してください」と問題を先送りしがちになります。
「どうせなら」という思いの背後に「自分はこれ以上できることはない」「私は悪くない」という他責思考を感じることがあります。
「三すくみ」の状態を改善するには、三者が三者とも他人任せにせず、不都合な状態が生じているのは自分にも責任があると認識し、お互いが真剣に問題と向き合い解決しようとする姿勢と戦術が必要になります。
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難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント。マンバワーグループ株式会社シニアコンサルタント。1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年より現職。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施作プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修などを100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。
『「働かないおじさん問題」のトリセツ』 難波 猛 著