文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】無駄な会議の時は「わがまま」に過ごす。
無駄な会議はなくならない
それにしても、なんと退屈で無意味な会議が多い世の中でしょう! 嘆いてみたところで、一朝一夕に無駄な会議はなくなりません。そしてそういう会議に限って、出席を義務づけられていたりします。
もしも、嫌々出ているような会議が多いなら、自身で対策を講じなければなりません。「嫌だな」と思った時点で、ストレスを感じ、ストレスを感じた時点で、自律神経のバランスを乱してしまっているからです。
極端な話、ストレスを放っておくと、血流や内臓器官の働きを著しく低下させ、しまいには体調不良に繋がりかねないのです。
私の場合、出席しなければならないにもかかわらず、参加する意義を見出せない会議は、「自分の自由時間」だと考えるようにしています。
例えばこんなことができます。
1.その時間を利用して、別の仕事のアイデアを練る
時間はいっぱいあります。ボーッと時間が過ぎるのを待っていてはもったいない。
2.姿勢を正し、腹式呼吸をしながら、精神を整える
マインドフルネスの瞑想の手法ですね。心を静かに、今の気持ちや身体状況をあるがままに受け入れることで、心身が安定します。これによって自律神経が整うのです。会議後、きっと仕事がはかどることでしょう。
3.ストレッチを行う
ストレッチによっても、自律神経のバランスを整えることができます。会議中に、他の人の邪魔にならずにこっそりできるのは、次の2つ(『不摂生でも病気にならない人の習慣』244〜245ページ参照)。
(1)肘を固定して手首を回す(肩甲骨の運動)
椅子に座って背筋を伸ばし、右腕を前に出し、手首が上になるように肘を直角に曲げます。次に右肘を左手で掴み、位置を固定します。そのままの位置で、右手首をグルグルと回す。これでOKです。腕を替えて、左手も同様に行います。
これは、立った状態でもできます。
(2)反対側の膝で足首を回す(股関節の運動)
椅子に腰掛けた状態で行います。理想的な椅子の高さは、座った時に膝が直角になるぐらいの高さです。座った状態で、右足首を左膝の上に軽く乗せます。その状態で、右の足首をグルグルと回します。同様に、左足も行います。
こんなふうに目的を持って会議をやり過ごせば、「無駄だった」とは思いません。思わない分、ストレスも軽減されたということです。
「時間の棚卸」をして検証する
会議に限らず、ビジネスシーンでは、思いのほか無駄なことが多くあります。無駄を省いていく、というのも、ストレスフリーな人生を送るには大切なことです。
無駄を省くのは、難しくありません。
まず、過去1週間の出来事を紙に書き出してみます。その案件にどのくらい時間をかけたのか、消費時間も明記します。すると、自分が何にどれだけの時間を消費したかが、たちどころに把握できます。
さあ、じっくり見てみましょう。思ったより、無駄な時間を費やしていませんか? 効率的に仕事をしたつもりでいたのに、いかに無駄な時間を使っているか。いかに他人に振り回されているか。「見える化」されたことで、そういうことが一目瞭然です。「時間の棚卸」ですね。
そして今度は、自問自答してください。
「これだけの時間を費やす価値を得たか」
「この時間は〝仕事の時間〟と言えたか」
「この相手と顔をあわせる必要があったか」
「時間を短縮する方法はなかったか」
「移動中の時間を有効に使えていたか」
こうしたことを検証していくのです。
そして、
① 本当にそれが必要だったのか
② その時間を自分の時間に変えられなかったのか
という2つの視点でチェックしていくと、改善点も見つかるはずです。私の会議の過ごし方は、②の視点から生まれてきた方法です。
人によっては、「わがまま」と受け取られるかもしれませんが、私は多少「わがまま」くらいがちょうどいいと思っています。
人にあわせてストレスを溜め込むよりは、「わがまま」に自分の時間を大切にして、ストレスフリーな状態にしていたほうが、結果的に仕事のパフォーマンスは上がり、チームへの貢献度も増します。
仕事の時間も人生も有限です。大切な時間を無駄にしないためにも、自分の自由を確保するためにも、小さな行動を積み重ねていきましょう。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
発売中
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。