文/印南敦史
『疲れないカラダ大図鑑』(夏嶋 隆 著/アスコム)の著者は、「動作解析」の専門家としてアスリートたちのトレーニングをサポートしてきたというメディカルトレーナー。
動作解析とは、人間の動作を観察・記録して、運動学や解剖学、物理学に沿った「人体構造に合った正しい動作」を検証し、それをスポーツの現場に還元してく研究です。(本書「はじめに」より)
姿勢や動作を正すことが健康状態を保つのに役立つ
これまでにプロサッカー、プロ野球、バスケットボール、格闘技、陸上競技など、スポーツ界で活躍する多くのアスリートたちが著者のもとに訪れているという。メディカルトレーナーは、注目される機会はさほど多くないかもしれないが、スポーツの現場には欠かせないポジションにいるわけだ。
たしかにアスリートには疲労や怪我がつきものだが、注目すべきはその原因である。多くのトラブルは、「間違った姿勢・動作」をしているために引き起こされるというのだ。
そこで本書では、著者が30年以上にわたって培ってきた「動作解析」の研究成果をベースに、一般の方にも取り入れやすくした「疲れない姿勢・動作」を紹介している。
アスリートたちと同様に、人体構造的に間違った姿勢や動作が習慣化してしまうと、肉体的疲労度が増し、パフォーマンスが著しく低下する危険性が高まります。
姿勢や動作を正すことこそ、体がベストな健康状態を保つのに胃は欠かせないことなのです。(本書「はじめに」より引用)
イラストを豊富に用い、立ち方・座り方・歩き方などを解説しているのは、そうした考え方に基づいているからだ。もちろんそれらも基本的かつ重要なポイントであるのだが、本書の説得力はそこまでにとどまらない。
寝返りで寝ている間の筋肉疲労が軽減する
第2部においては生活習慣にも焦点を当て、すぐに取り入れやすい考え方やメソッドを紹介している。立ち方や座り方、歩き方などにくらべ、それらは忘れてしまいがちなことでもあるだろう。
そこで今回はこのパートから、「睡眠」について知っておきたいことを取り上げてみたい。
熟睡したにもかかわらず「朝起きると疲れている」ことは少なくないのはないだろうか。著者によれば「体がだるい」「重い」「痛い」などの不調は、脳は休まっているのに体が休まっていないことを示しているのだという。
なぜ、眠ったのに体が休まっていないかというと、寝ているときの環境や姿勢によって、体が疲れをため込んでしまっているからです。起きているときと同様に、筋肉はずっと同じ姿勢をしていると、血流が悪化し、どんどん疲労物質をため込んでしまいます。つまり、寝ているときも、できるだけ姿勢を動かしたほうが、体は疲れにくくなるわけです。(本書226〜227ページより引用)
そのために必要なのは、「寝返りの回数を増やす」こと。寝返りの回数が増えれば、寝ている間の筋肉疲労が軽減するので、朝起きたときにだるさや疲れを感じにくくなるというのだ。
寝返りの回数を増やすために必要なのは、寝具の環境を見なおすこと。
まずはベッドだが、柔らかくて沈み込みやすいものは、体が安定してしまうので寝返りを打ちにくくなる。硬めのベッドのほうが寝返りの回数が増え、腰にかかる負担も軽減できるということで、なるべく硬めのものを選ぶのが望ましい。
枕に関しては、「寝ている間にずっと仰向けで寝ている人はほとんどいない」という点に注目する必要がある。右を向いたり左を向いたり、横向きに寝ている時間が必ずあるということだ。
枕の高さは、仰向けに寝たとき、腰をベッドにつけていられる高さがベスト。
しかし同じ枕で横向きに寝ると、下側の肩甲骨が前に出て巻き肩になり、それが肩こりの原因になってしまう。そのため横向きに寝るときは枕の高さを高くして、巻き肩にならないようにする必要がある。
そこでオススメなのは、中央部は仰向けの高さに合わせ、両サイドは横向きの高さにする方法です。低めの枕を中央に置き、高めの枕を両サイドに配置すれば、仰向けでも横向きでも体に負担をかけない姿勢で眠ることができます。(本書233ページより引用)
中央が窪んでいて、両サイドが窪んでいる枕を利用するのでもいいようだ。
いずれにしてもベッドと枕の環境を整えれば、たとえ寝返りを打ったとしても体への負担は少なくなるということ。ちょっとした工夫が、体の負担を減らしてくれるということで、これはぜひとも取り入れたいところだ。
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他にも「食事」「ストレッチ」「メンタル術」など、取り扱っていることがらは実に広範。手に届く場所に置いておけば、なにかと役立ってくれそうな一冊である。
『疲れないカラダ大図鑑』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。