腰痛を改善するために腹筋トレーニングをすすめられることがあると思います。
しかし、腹筋をおこなったためにかえって痛くなってしまったり、そもそも痛みのために腹筋自体ができなかったり、というようなことも多いでしょう。
今回は、腰痛を改善するために好ましくないトレーニングの方法と、正しい腹筋トレーニングの方法をご紹介します。
腹筋と言えば「シットアップ」ですが…
腹筋トレーニングと言えば、仰向けに寝た姿勢から上半身をおこす、いわゆる「シットアップ」というトレーニングをまず思い浮かべるのではないでしょうか。
しかしこのトレーニング法は、タイトル画像でも示したとおり好ましくありません。
例えば日本バスケットボール協会では、2016年から指導者養成の場で上体起こし(シットアップ)を「推奨できないトレーニング方法」として周知をすすめています。
この方針をすすめるにあたり参考にしたのが、カナダ・ウォータールー大のスチュアート・マックギル名誉教授の研究です。
スチュアート・マックギル名誉教授は、膝を曲げた状態か、伸ばした状態かに関わらず、上体起こしで脊椎が圧迫される力は、米国立労働安全衛生研究所が定めた腰痛につながる基準値と、同等だとする研究結果を発表したのです。
つまり、通常の腹筋運動だと腰の椎間板を圧迫するので、何度も繰り返すことで椎間板を痛める可能性があるということです。
かわりに推奨されているのが、「カールアップ」というトレーニング法。
上の画像のように、通常の腹筋と同じ姿勢で肩甲骨が床から離れるくらい(約20度)まで上半身を起こします。
その際、腰を動かさないことと、頭と背中の角度をできるだけ同じにするようにすることがポイントです。
手の位置は頭の後ろでなく、胸の前で組むようにしてもOKです。
最近流行りの「プランク」は…
最近「プランク」という腹筋トレーニングが、ダイエットや美容にも効果があるということで非常に流行っています。
上の画像のように、いわゆる「肘立て伏せ」のような姿勢のまま、数十秒から数分キープするというトレーニングです。
腰痛改善のためにもすすめられることがありますが、このトレーニングは腰痛の程度によっては症状を悪化させてしまうかもしれません。
一口に腰痛と言っても症状は人によって違います。
端的に言うならば、このトレーニングができる程度の軽症の腰痛の方ならあまり問題なく、症状も改善するかもしれませんが、やや症状が重い方、とくに次のような症状がある方がおこなう場合は注意が必要です。
■なんどもギックリ腰を繰り返している
■座ったあと腰が痛くてしばらく伸ばせない
■寝返りで腰が痛む
このような症状がみられる場合、体幹の深層筋(インナーマッスル)が弱っていたり、腰部や股関節の筋肉が過度に緊張していたりする可能性があるため、「プランク」をおこなうと悪化してしまうかもしれません。
インナーマッスルを鍛える「ドローイン」は…
「ドローイン」というエクササイズを聞いたことがあるかもしれません。
「ドローイン」は腹式呼吸をおこなって「腹横筋(ふくおうきん)」というインナーマッスルを鍛えるトレーニング法のことです。
「腹横筋(ふくおうきん)」というのは、下の図のように、肋骨と骨盤の間の空間(腹腔)を覆うように存在している、深部の筋肉です。
内蔵を支えたり、骨盤底筋など他のインナーマッスルと協働して腹圧を高め、内側から背骨や骨盤、腰(体幹)を支えたりする働きがあります。
腹横筋が弱ると下腹がポッコリ出てきたり、ウェストのくびれがなくなったり、腰痛になりやすくなったりします。
「腹横筋」を強くする「ドローイン」は、腰痛改善のために大変効果的なトレーニングです。
腰痛を改善する「インナーマッスル」のトレーニング法
「腹横筋」は呼吸にもかかわり、息をしっかりと吐ききる時に力が入る(収縮する)筋肉です。
そのため「ドローイン」のトレーニングは、腹式呼吸で大きくお腹を使って呼吸するトレーニングです。
一般的な「ドローイン」のトレーニングは、下の図のように、腹式呼吸で息を吸う時に大きくお腹を膨らませ、息を吐く時にお腹が凹むようにしていきます。
筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/index.html)では、ドローインに加えて次のようなトレーニングを指導し、腹横筋や骨盤底筋などの体幹インナーマッスルを使えるようにしていきます。
以下を参考におこなってみてください。
自宅で出来る!腰痛トレーニングより(https://www.re-studio.jp/dvd.html)
※画像では専用のポールに乗っておこなっていますが、床に寝たままおこなっても同じような効果があります。
1.床にあおむけになり両膝を立てた姿勢をとります。
2.そこから腹式呼吸の要領で、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口をすぼめて天井に息を吹きかけるようにしっかりと吐き切っていきます。
この時に、おへその下あたり(下腹部)をへこますようにしながら息を吐いていきます。
下腹部をへこますようにしっかりと息を吐ききることで、腹横筋に力が入るようになります。
息を吸うのは軽く、吐くときはお腹の底からしっかりと吐き切るようにしましょう。
3. 息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締める
2.ができたら、今度は下腹部(腹横筋)と肛門(骨盤底筋)を同時に締める練習をします。
腹式呼吸で息を吐き切りながら、下腹と肛門を同時に締めるように力を入れてみましょう。
うまくしっかり吐き切りながら肛門を締められると、下腹部に強く力が入り、固くなるのがわかります。
またこの時に、背中や腰や脚は力を抜いてください。
背中や腰や脚に力が入ってしまうと、かえって痛みを起こしやすくなりますので注意してください。
4.息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締め、恥骨を引き上げて腰を丸め、床に押し付ける。
恥骨を引き上げるとは、みぞおちの方に向けて腹筋で引き上げるようにすること(下画像オレンジ矢印)です。
すると骨盤は後傾方向に回転します(黄色矢印)。
こうすることでさらに腹圧が高まりやすくなり、腰をしっかり支える姿勢をとりやすくなります。
これらのトレーニングを、1日30回を目標におこなってみましょう。
いっぺんに30回でも構いませんし、10回ずつ朝昼晩のように分けても構いません。トータルで30回が目安です。
30回以上できるようなら、やればやるほど効果は出ます。
しかし、腰や背中、脚などに余計な力みがあると、かえって痛みを起こすことがありますので、その点はご注意ください。
また効果が出てくるまでには少し時間がかかります。2週間から1か月程度は根気よくトレーニングを続けてください。
このトレーニングをおこなうことで痛みが出たり、または痛みのためにこのトレーニング自体ができないようでしたらやめてください。
以下の記事でも様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
ぜひお読みください。
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拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html