文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】「一匹狼」になる。
「仲間」を作るから嫉妬心が生まれる
ジェラシー、妬み、嫉み。いわゆる嫉妬心が、自律神経を大きく乱すことが、実験からもわかってきました。こうした感情に支配されている時、交感神経が異常に高ぶり、血管が収縮し血圧は上昇、そして血液はドロドロ……。こうしたことが、数値ではっきりと出ているのです。
ではどうして、嫉妬心が生じるのでしょうか。
ビジネスパーソンの嫉妬の大半は、同僚への妬みでしょう。会社に所属していれば、出世競争からは逃れられません。そして、同僚と同じタイミングで出世するなどということはあり得ません。
ところが、日本のビジネスパーソンを見ていると、「同僚とつるむ」ということに心血を注いでいる人が多いように思います。ランチをひとりで食べるなどもってのほか、ビジネス街で昼食をとっていると、必ず、ビジネスパーソンの集団と出くわします。彼らは、つるむことで安心感を得ている気になっているのでしょう。
なぜつるむのかと言えば、「自分と同じような仲間が欲しい」と考えているからです。学校教育で、周りと一緒であることを強いられてきたせいか、自分と同じレベルの人間を自分の周りに集めようとします。それだけならまだしも、自分たちのレベルより低い(と思っている)人たちを見下し、高いレベルの人間に対してはペコペコして引き立ててもらおうとするか、引きずり下ろそうとするかのどちらか。
つるんでいる人間にろくな奴はいない。これは私の持論です。
さらに、「仲間」を作ってしまったことが、あとあと響いてきます。仲間が先に出世してしまった場合、そこに嫉妬心が芽生えてしまうからです。しかもこの嫉妬はなかなか消えません。いったいこの人の自律神経はどうなってしまうのか。他人事ながらたいへん心配です。
ではどうしたらいいか。
簡単です。つるまなければいいのです。「一匹狼」を貫けばいい。こうすれば、比べる相手がいませんので、妙な嫉妬に駆られることはありません。
「つるむこと」によるさまざまな弊害
友だちを作るな、と言っているのではありません。友だちが必要ない、ということでもありません。無理につるむ仲間はいらない、ということです。
仲間とつるむ弊害は他にもあります。
こうした同質の仲間は、他の集団への悪口や愚痴が増えてしまう傾向があります。こうした罵詈雑言は、自分が参加していなかったとしても、耳から入ってきただけで、余計なストレスが増し、自律神経のバランスが崩れてしまうのです。
もうひとつは、つるむことで時間を無駄にしているということです。
例えばランチに5人で行ったとしましょう。5人が一度に入れる店を探すのは時間がかかります。ひとりで食事に行った時と比較すれば、どれほどの時間をかけていることになるでしょうか。
集団でランチを食べて、聞きたくもない愚痴に相槌をうっているよりも、ひとりでゆったりとランチを食べたほうが、精神の安定を保てるのは間違いありません。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。