文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】一度切って、自分からかけ直す。
自分のペースに引き込むには?
オフィスや携帯電話にかかってくる突然の電話。取り次いだ人から電話の相手の名前を聞いたり、スマホの画面に出る名前を見たりした瞬間、テンションが落ちることもあることでしょう。
「うわっ、この人か……。面倒な内容だろうな……」
少しでもそう感じたならば、そのまま電話に応じてはいけません。うっかり取ってしまった場合も、「かけ直します」と言って、早めに切ってしまってください。
なぜなら、「嫌だな」「面倒だな」と感じた時点で、あなたの自律神経が乱れ始めているからです。つまり面倒な事態に対応するためのコンディションはすでに悪化。例えば、コンディションが悪い状態で、試合に臨んだアスリートがベストなパフォーマンスを発揮できることはまずありません。ビジネスパーソンも同様です。
すでに自律神経が乱れているわけですから、このままの状態で電話に対応すれば、うまくいきません。元々苦手な相手なのですから、良好なコミュニケーションなど望むべくもないでしょう。
では事後対応はどうするか。まずは基本の深呼吸。コップ1杯の水も飲みましょう。これだけで、あなたの自律神経のコンディションは随分、整います。
そして、ここがポイントなのですが、焦ってかけ直さず、自分のタイミングを整えてから、かけ直すべきです。こちらから電話をかけるわけですから、それが可能になります。
実際、クレーム処理の現場でも、かかってきた電話に対して、すぐには対応せず、かけ直すことが多いと聞きます。かかってきた電話は相手のタイミングです。ここでコミュニケーションを取ると相手のペースに乗ってしまい、売り言葉に買い言葉なんてことにもなりかねません。いったんクールダウンし、自分のペースで進めていくということでしょう。
自律神経の面から言っても、これには利点があります。
相手は「クレーム=怒り」の電話をかけてきているわけです。怒りで自律神経が乱れていると言っていいでしょう。いったん間を置けば、自律神経は多少ですが整っていきます。落ち着いた頃合いに電話すれば、向こうが電話してきた時とは比べものにならないほど、落ち着いているはずです。電話での話し合いも、きっと有意義なものになるでしょう。
電話に出ない時間を決める
私の場合、「この時間は電話に出る/出ない」ということを、明確に決めています。もちろん、医者という職業柄、患者さんからかかってきた電話や、病院からの緊急電話には必ず出るようにしています。
そのほかの電話に関しては、その方との間で重要な案件を抱えていたり、失礼があってはいけない相手だったり、そういう場合を除いて「出ない」と決めています。例えば、電話がかかってきた時、それが食事会やミーティングの最中だったら、むしろ、電話に出ること自体が、その場にいる他の人たちに対して、失礼だとは思いませんか? 話を中断してまで出なければいけない電話とはなんだ、というわけです。
だから私は、電話を取るルールを自分の中で決めています。こうやって決めておけば、たとえ出なかった時も、後ろめたい気持ちにならないものです。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
発売中
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。