今宵の『四季咲 半夏生』には、どんな料理が合うのでしょうか。大阪・北区にある割烹料理店『堂島雪花菜(どうじまきらず)』の間瀬達郎さんが用意してくれたのは、「鮎のうるか焼き、蛸と青瓜の和え物」。鮎は、好んで食べる川藻のせいでスイカやキュウリを連想させる香りをもつことから香魚の名で知られます。その鮎に苦味がうれしい内臓の塩辛「ウルカ」を塗って焼く、いかにも夏の味覚にふさわしいひと品です。
『四季咲 半夏生』は、口に含んだ折りに感じる華やかな香りにひとつ特徴があります。香り成分のカプロン酸エチルやカプリル酸エチルには、かすかな苦みを伴ってもいます。その酒の苦味に、焼いた鮎の香ばしさと塗ったウルカのほろ苦さが口中で足し算される幸せをどう表現するといいでしょうか。
酒と鮎がもつ大人の苦味が交わるというよりも、平行ラインで同調し合ってなお、互いの個性は失われないまま、むしろ際立つ感じがあります。
生酒に特有のフレッシュさには、付け合わせの大葉と茗荷(みょうが)をのせた蛸と青瓜が見事にマッチ。少量振りかけた山形産「一味」が『四季咲 半夏生』の甘みを、ほどよく引き立てています。
華やかな吟醸香を生かしながら、天然鮎独特の瓜(うり)っぽい香りともうまくなじんで、夏の蒸し暑さを忘れさせてくれる酒肴の逸品です。
■通常よりも少し低めの冷やし加減がおすすめ
今回の『四季咲 半夏生』の愉しみ方で、ひとつ付け加えたいのが冷やす温度帯のことです。一般的な食中酒なら15℃前後、それぐらいの温度が、料理により幅広く合わせやすいのです。でも、今回のような華やかで甘みのあるお酒の場合は、どうかすると味わいにしまりがなくなるきらいがあります。ですから、通常よりも少し低めの温度で愉しんでいただくことをおすすめします。
お酒の冷やし加減は5℃も違えば、その味わいの印象は大きく変わってきます。ですから、家での晩酌に際しても、料理との相性に加えて、酒の温度も意識されると、いつものひとときがより幸せなものになると思います。
ところで、私どもの店舗『白菊屋』(酒販店)には、時節ごとの『四季咲』シリーズを必ず1本ずつ買い求めるお客さまがいらっしゃいます。なによりも「お酒の味わいで折々の日本の季節を知る。それも思いきり季節の細部に踏み込んで味を楽しみ感じ入る」ことがうれしいのだそうです。
つい先日、そのお客さまが来店されたとき、長龍酒造蔵の橋本愛裕(はしもと・よしひろ)さんが、折よくうちにいらしておりましたので、おふたりをご紹介しましたら二十四節気・七十二候の季節のうつろいについて話題がはずんだようで、ひとしきり話し込んでいらっしゃいました。
かくいう私も、四季の行事については多少の知識はあったものの、この『四季咲』のシリーズに出会わなければ、うつろいゆく天地の季節を、それこそ5~6日ごとに感じ取る、その繊細な表現にまで踏み込んで意識することはまずなかったと思います。
文/藤本一路(ふじもと・いちろ)
酒販店『白菊屋』(大阪高槻市)取締役店長。日本酒・本格焼酎を軸にワインからベルギービールまでを厳選吟味。飲食店にはお酒のメニューのみならず、食材・器・インテリアまでの相談に応じて情報提供を行なっている。
■白菊屋
住所/大阪府高槻市柳川町2-3-2
TEL/072-696-0739
営業時間/9時~20時
定休日/水曜
http://shiragikuya.com/
間瀬達郎(ませ・たつろう)
大阪『堂島雪花菜』店主。高級料亭や東京・銀座の寿司店での修業を経て独立。開店10周年を迎えた『堂島雪花菜』は、自慢の料理と吟味したお酒が愉しめる店として評判が高い。
■堂島雪花菜(どうじまきらず)
住所/大阪市北区堂島3-2-8
TEL/06-6450-0203
営業時間/11時30分~14時、17時30分~22時
定休日/日曜
アクセス/地下鉄四ツ橋線西梅田駅から徒歩約7分
構成/佐藤俊一
※ 藤本一路さんが各地の蔵元を訪ね歩いて出会った有名無名の日本酒の中から、季節に合ったおすすめの1本をご紹介する連載「今宵の一献」過去記事はこちらをご覧ください。