「あれ? なんて書くんだっけ」と、手が止まることはありませんか? 仕事のメール、家族の連絡、ちょっとしたメモ。いったん考えてみるものの、結局は変換候補に頼って「まあいいか」で済ませてしまいがちです。
けれど、思い出そうとする「数十秒」が、記憶のいい刺激になります。答えを見る前に少しだけ粘ってみる…それが脳トレの入口です。
「脳トレ漢字」今回は「東風」をご紹介します。春の訪れを待ちわびながら漢字への造詣を深めてみてください。

「東風」は何と読む?
「東風」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「こち」です。
春に東の方角から吹いてくる風のことを指し、俳句では春の季語として用いられます。また、単純に「ひがしかぜ」や「とうふう」と読む場合もあります。この読み方では、文字通り東から吹く風という意味になり、季節を問わず使われます。
さらに、『万葉集』では「あゆ」という古い読み方も見られます。ただし、現代ではほとんど使われていません。
春の訪れとともに吹く「こち」は、冬の寒さを和らげ、梅や桜の開花を促す風として、日本人の季節感と深く結びついています。
「東風」の由来
では、なぜ春の風が「東風」と書かれるようになったのでしょうか?
古代中国の陰陽五行では、「東」は季節の「春」を司る方角とされています。そのため、東から吹く風は、春を連れてくる風、すなわち冬の氷を解かす暖かな風と考えられていたのです。
これが日本にも伝わり、雅な表現として定着したといわれています。
菅原道真が京へ残した「東風」への願い
「東風」という言葉を語る上で、決して避けて通れないのが、平安時代の貴族・菅原道真のエピソードです。学問の神様として知られる道真公ですが、彼が京の都を追われ、大宰府へと左遷される際に詠んだ和歌は、あまりにも有名です。
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ
(東風が吹いたなら、その風に乗せて香りを私のもとへ届けておくれ、梅の花よ。主である私がいなくなっても、春が来たことを忘れてはいけないよ)

この歌での「東風」は、単なる気象現象ではありません。京の都と、遠く離れた大宰府を繋ぐ唯一の架け橋であり、道真の望郷の念を運ぶメッセンジャーとしての役割を担っています。この歌に呼応するように、道真を慕って梅の木が一夜にして大宰府まで飛んでいったという「飛梅伝説」も生まれました。
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今回の「東風」のご紹介は皆様の漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 凍てついた心を溶かし、新しい季節へと誘う「東風」。皆様のもとにも、暖かな春の便りが届きますように。
来週もお楽しみに。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











