文/印南敦史

ビールのおいしい季節になった。
だが実際のところ、ビールに関する基本的な知識をしっかりお持ちの方は意外と少ないかもしれない。
そこでぜひともチェックしておきたいのが、『BEER LOVER’S BOOK 一生ものの趣味になるビール入門』(藤原ヒロユキ 著、リトル・モア)だ。
タイトルにあるとおり、知っておきたいビールの知識がぎっしり詰まった一冊である。
本書では、ビールを愛する人すべてが、多彩なビールを楽しく飲めるように、原料、造り方、クラフトビールとは何か、ビアスタイル、グラスの選び方、ビールの注ぎ方、テイスティング、ペアリング、ホップ栽培などを解説している。(本書「はじめに」より)
つまり本書で知識を蓄えれば、ビールをさらにおいしく楽しめるわけだ。
とはいえ読み切るには相応の時間が必要なので、今夜のビールを飲むまでに読み終えるのは難しそうだ。また、「専門知識は身につけたいが、いま冷蔵庫のなかに入っているのは大手メーカーのビールだ」という方もいらっしゃるに違いない。
そこで、ここでは著者が勧める「ビールの三度注ぎ」をご紹介することにしよう。どこででも買える大手メーカーのビールも、泡をうまくつくるように注げば、口あたりも滑らかな、ビアホールのようにスムーズな喉ごしのビールになるというのである。
大手メーカーのビールを家で楽しむ際の注ぎ方は、グラス全体にトクトクと注いで泡をつくることが重要なのだという。意外なことに、グラス全体が泡だらけになっても気にする必要はないらしい。
なぜなら、しばらく待つと泡がビールに戻って液面が上がり、泡は締まって下がっていくからだ。そこまで待ったらふたたびビールを注ぎ、1回目と同じようにまた泡が落ち着くのを待つ。
そして最後にもう一度注げば、泡がグラスの淵よりも高く盛り上がる。最終的なバランスとしては、「ビールが7で、泡が3」がうまいビールの黄金比だそうだ。

もちろん、これはビアスタイルによって変わってくる。ドイツのヴァイツェンは泡が立ちやすいので、そっと注ぐ必要があるし、ベルギーのゴールデンエールはきめの細かな泡が特徴なので、泡が多くなるように注ぐ。専用グラスがあれば、グラスにプリントされたブランド・ロゴの中央が泡とグラスの境目にするとちょうどいい。(本書103ページより)
たしかに突き詰めていけばそうなるだろうし、ビールのスタイルに応じて注ぎ方を変えることも楽しみのひとつになるだろう。だが、まずは手もとにある大手メーカーのビールをいかにおいしく飲むかが先決である。
だからこそ、「ビールの三度注ぎ」を実践してみるべきなのだ。その先には、さまざまなビールをテイスティングしてみる楽しさが待っているのだから。
ビア・テイスティングは宝探しだ。ビールの中に隠れているさまざまな香りや風味を見つけ出す楽しみは何物にも代え難い。ビールの奥に潜んでいる香りや味を見つけ出したときの感覚は、まるで金脈を掘り当てたかのようだ。この興奮を、ぜひとも体感してほしい。(本書105ページより)
ビール好きなら、この表現が決して大げさではないことを理解できるに違いない。
また著者によれば、それぞれのビールの味わいや感想を“記録”として残しておくのも楽しみのひとつであるようだ。
恥ずかしながら鈍感な私は「飲んでうまければそれでいい」としか考えていなかったのだが、記録することで自分の好みがわかったり、次に飲んでみたいビールの参考にしたりすることもできるというのである。
最初のうちは、好き嫌いのメモ程度でもいい。習慣づいたら一定の基準を持った客観的なテイスティングを記録しておけば、必ずのちのち自分のためにも役立つ。(本書103ページより)
たしかにそこまでやってみれば、ただ飲むだけではなく、ビールについてのあれこれを趣味の領域にまで広げることができるかもしれない。
ちなみに著者は、中学教員を経てフリーのイラストレーターになったという異色の経歴の持ち主。当然ながら本書に使われているイラストもご自身によるもので、味わい深いビールのような親しみやすさがある。

藤原ヒロユキ 著
1980円
リトル・モア
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。
