では、もうひとつ私が投げかけた問いの「ざるせいろ」とは、いかなるものなのだろうか。
これは、蕎麦を盛る蒸籠の名称で、「ざるせいろ」には、四角のものと丸いものがある。四角いものは正方形をしている。
これが長方形になると、「もりせいろ」と呼ばれる。
「守貞漫稿」に書かれている「盛り蕎麦」は、この「もりせいろ」に盛られた蕎麦のことなのかもしれない。
もり、ざる、蒸籠のことを掘り下げていけば、話はずるずると止めどなく出て来る。その様子は、畑で引き抜いた一本の茎に繋がって、ジャガイモがごろごろと、数えきれないほど出て来るのに似ている。
細く長く繋がった蕎麦は、たぐり寄せると、思いもかけなかった驚きや楽しみを引き出してくれる。そういうところが、蕎麦の魅力の柱のひとつになっているのだ。
さて、今度、蕎麦屋の暖簾をくぐったら、あなたは「盛り蕎麦」「笊蕎麦」「蒸籠(せいろう)」のうち、どれを注文されるのだろうか。
いし塚
静岡県下田市敷根4−21
電話:0558-23-1133
定休日:水曜
上野藪蕎麦
東京都台東区上野6-9-16
電話:03-3831-4728
定休日:水曜(祝日は翌日休み)
文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)などがある。