では、先ほどの問い、「盛り蕎麦」とは、どういう器に盛られた蕎麦をいうのだろうか。この名前の中には、器らしき名前の要素は入っていない。
江戸時代の風俗を記録した名著「守貞漫稿」(もりさだまんこう)を見ると、次のような意味のことが書かれている。
「江戸では二八蕎麦にも皿は使わない。外側が朱塗りで、内側を黒く塗った器を使い、底に竹簀を敷いた上に蕎麦を盛る。これを盛りという。盛り蕎麦の下略なり。」
この文からわかることは、江戸ではないどこか、おそらく上方なのだろうが、二八蕎麦には皿を使っていたらしい。
江戸では、二八蕎麦に、朱と黒に塗り分けた上等な器を使った。底に竹簀を敷いてあるのだから、蒸籠だと思って間違いないだろう。
これを「盛り蕎麦」と呼んだというのだ。
盛り蕎麦とは、つまり、蒸籠に盛った蕎麦を指したということが、「守貞漫稿」から読み解ける。