文/鈴木拓也

画像はイメージです。

西村栄基(しげき)さんが、勤務先の辞令でドイツに赴任したとき、何より驚いたのはドイツ人管理職の働き方であった。

朝一番に出社した上司は、観葉植物に水をやりながら、社員らと談笑。日中も、仕事に追われる雰囲気は微塵もなく、午後5時には他の社員と一緒に、オフィスを後にしたからだ。

赴任直前までいた日本のオフィスでは、誰もが朝から晩まで自ら鞭打つように働き、上司は部下よりも疲労の色が濃かった。

この激しい落差は、いったい何が原因なのか……。

あれから20年近く経ち、今は商社のドイツ支社で拠点長を務める西村さんだが、これまでの経験と思索を元にした本を出した。書名は、『ドイツ人のすごいリーダーシップ』(すばる舎 https://www.subarusya.jp/book/b666561.html)。どのような内容か、その一部を紹介しよう。

リーダーの役割はメンバーの「奉仕者」

西村さんは、日本とドイツとでは、そもそもリーダーシップに対する考え方が異なっている点を指摘する。

日本企業でリーダーの役割といえば、部下をまとめ上げ、業務命令を発し、報連相を密にして成果を出すというイメージがある。

対してドイツ企業のリーダーは、「サーバントリーダーシップ」の考えが根付いている。「サーバント」とは奉仕者の意味。リーダーは、メンバーの奉仕者として彼らの「成長と成功を最優先にして、環境づくりとスムーズな連携に力を尽くす」のが、第一の使命だという。

西村さんは、リーダーの具体的な行動指針を挙げている。例えば「傾聴」。リーダーは、「メンバーの意見やアイデアを聞き、共感する姿勢を示す」ものとされる。他に、「質問」「支援」「育成」「感謝」がある。「命令」は含まれていないし、プレイングマネジャーとして自身がメンバーのタスクを受け持つこともない。西村さんは、これをオーケストラの指揮者にたとえ、次のように書いている。

指揮者は自分のパートを完全に理解し、演奏に集中している各楽器演奏者たちをまとめて、音楽全体に統一された解釈を与え、美しいハーモニーを生み出します。
実際、彼らが重視しているのは、目標達成のためのプロセスで、各工程を緻密に計画・管理し、組織全体の効率性と成果を最大化することです。(本書73pより)

もう1つの特徴として挙げられるのは、企業自体が比較的フラットな組織構造であることだ。管理階層が少ないため、素早く効率的に業務が遂行できるメリットがある。これは、リーダーがメンバーに大きな信頼を寄せているという前提があってこそ、成立する仕組みだ。

日常的な雑談が大事な理由

ドイツの企業風土の特徴として、上司と部下の飲みニケーションがほとんどないというのがある。

にもかかわらず、ドイツ人のほうがコミュニケーションは密だと、西村さんは指摘する。それは、「日常的な雑談が、チームの関係性を強固にする要素」とみなされているから。そのおかげで、心理的な安全性が強化され、生産性の向上にもつながっているという。

ドイツの職場で交わされる雑談で一番多いのが、メンバー個人に対する上司からの感謝の言葉。ドイツ語の「Danke(ダンケ)」は、単に「ありがとう」ではなく、「あなたがいて助かった」という、承認の意味合いを含んでいる点は重要だ。さらに、その言葉を発する回数も「段違い」だという。それが、チーム内の信頼感や結束を醸成することを、リーダーはしっかり理解しているのである。

西村さんは、日本企業のリーダーにも、同様のコミュニケーションをすることをすすめている。

部下が資料を作成してくれたら、「ありがとう、助かったよ」と具体的に感謝を伝える。
一日の終わりに、「今日もおつかれさま」とねぎらいの言葉をかける。
基本的なことです。(本書123pより)

リアルでの対面機会の少ないリモートワークならなおさらで、「この資料、わかりやすくまとめてくれて助かりました、ありがとう!」などと明確に伝える。それだけでもメンバーは、貢献が評価されていることを実感する。

そして、感謝以外の雑談もおろそかにしない。遠慮せず、「最近どう?」という感じでリーダーから振ってみる。また、先に声掛けはしても、聞き方が重要となる。「それは大変だったね」など相槌や質問を返し、相手に興味を持っていることを、きちんと伝えたい。

80点の成果でよしとする

ドイツ人リーダーの考え方に、メンバーに「100点満点を求めない」というのがある。

求める成果は80点。そこから100点にするためのコスト・時間をかけるぐらいなら、及第点で世に出してしまう。その後で、ユーザーからのフィードバックをもとに改良を重ねればいい。

この考え方の背景にあるのは、効率性重視の思想だ。完璧主義を追求すると、えてして効率は低下する。メンバーの負担も増し、モチベーションが落ちるなど、いいことはない。

また、意思決定も速さ優先で、完璧な精度は求めない。「試してみて、ダメなら修正すればいい」という風土が根付いているおかげだ。

この即断即決の精神は、日本人のリーダーには特に難しいと感じるものかもしれない。そこで西村さんは、即断即決になるためのトレーニング法をいくつか記している。

その1つが、「ランチメニュー即決トレーニング」。ランチで入ったお店での注文内容を、15秒以内に決めるというものだ。これは、西村さんが取引先の幹部たちと会食した際、相手がほぼ即決で注文を決めた経験にもとづいている。

何を選ぶかは直感に任せる。最初のうちは、「やっぱりあっちが良かったかな……」と思ったりするが、習慣化すれば苦にならなくなる。あとは、ビジネスの現場に応用するだけ。間違ったと思ったら修正していけばいい。

* * *

本書を読むと、ドイツ人のリーダーシップに関する考え方に、最初は戸惑うことだろう。だが、日本人よりも少ない労働時間で、圧倒的な労働生産性を実現し、平均賃金も約1.6倍高い彼らに、謙虚に学ぶ意義は大きい。もし、職場のリーダーとして行き詰まりを感じているなら、一読して実践する価値はある。

【今日の仕事力を高める1冊】
『ドイツ人のすごいリーダーシップ』

西村栄基著
定価1650円
すばる舎

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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