梅とメジロ

ニュースや天気予報で「暦の上では春を迎えました」といった言葉を耳にします。まだ厳しい寒さが続いている中で、そんな言葉を聞いても、あまり実感が湧かないものです。しかし、自然は春を敏感に感じ取っているようで、日足は伸び、木々も芽吹いて、梅の花も咲き始めます。そうした変化から、春の気配を感じられるのではないでしょうか。

古来より日本人は二十四節気を定め、季節を区分してきました。一年を24に分けることで、月日の移ろいを感じ取ってきたのです。自然に触れる機会が減り、季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。

さて今回は、旧暦の最初の節気「立春(りっしゅん)」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。

目次
立春とは?
立春の行事や過ごし方とは?
立春に旬を迎える食べ物
立春の季節の花とは
まとめ

立春とは?

「立春」とは、2月前半から2月後半にあたる二十四節気の一つです。「春が立つ」と書くように、春が始まる日とされます。立夏、立秋、立冬とともに四季の始まりを意味する「四立(しりゅう)」の一つで、暦の上ではこの日から立夏の前日までが「春」となります。

二十四節気は毎年日付が異なりますが、立春は例年2月4日〜2月18日になります。2023年の立春は、2月4日(土)です。また期間としては、次の二十四節気の「雨水(うすい)」を迎える、2月19日頃までが該当します。2023年は2月4日(土)〜2月18日(土)が立春の期間です。

二十四節気の第一番目とされる立春は、旧暦上では一年の始まりと考えられていました。現在でも正月に「新春」や「迎春」などの表現を使います。これは旧暦では、立春から新年が始まり、正月は立春とほぼ重なっていたからです。旧暦の頃の元日は、立春に近い新月の日とされていたため、年が明けるとすぐ立春でした。時には元日となるより早く立春を迎えることもあり、その場合を「年内立春」と呼んだとされます。

また、立春後から春分までの間に、初めて吹く南向きの強い風は「春一番(はるいちばん)」です。冬型の気圧配置が崩れ、温帯低気圧が発達した時に吹くため、春の訪れを告げる風とされます。元々は、漁業者らが海難防止のために、冬とは風向きの異なる強風を呼ぶ名でした。それが1950年代後半よりマスコミで使用され、「春一番」という名称が一般化したとされます。

立春の行事や過ごし方とは?

立春を迎えて初めに訪れる午の日を「初午(はつうま)」と言います。初午は、豊作祈願と稲荷信仰が結びついたもので、全国各地の稲荷神社や稲荷の祠(ほこら)で祭礼が行われる日です。この日は、伏見稲荷大社(京都市)の御祭神である稲荷大神様が稲荷山に降臨した日とされています。2023年の初午は2月5日(日)です。「稲荷」とは元々は農業の神様でしたが、今では広く商業・産業を守護する神様とされ、初午は商売繁盛、出世開運を願う人で賑わいます。

また、禅宗のお寺などでは「立春大吉(りっしゅんだいきち)」と書かれた札を、家の入口に貼る風習があります。文字そのものが左右対称である「立春大吉」の文字は、邪気を祓うとされ、一年の始まりに家に入ってきた鬼を追い出すのだとか。家の入口や、勉強部屋など大切な部屋の入口に、目より高い位置に貼り付けるのが良いとされます。

立春に旬を迎える食べ物

ここからは、立春の時期に旬を迎える京菓子、野菜・果物、魚をご紹介します。

京菓子

「早春」

「春告草(はるつげぐさ)」という異称がある梅は、春の到来を知らせる花だと言われています。寒風の中、花を咲かせる姿は、一足先にあたたかな春を連れてきてくれるようです。

季節ごとの花を愛でながら、季節の移ろいを感じる-その心は、花を模して甘味として楽しむ「京菓子」へも映し出されています。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久さんに、立春の時期に楽しめる京菓子について詳しいお話をお聞きしました。

「当店(茶寮宝泉)では立春の時期になりますと、梅の花の形を模した生菓子『早春』を提供いたします。

『茶寮宝泉』の『早春』は、外郎(ういろう)餅生地で白餡を包み込み、竹へらで細工をし、五弁の花弁を形作ります。仕上げに、黄色い“匂い”(雌しべに当たる部分)をつけて完成です。

上生菓子はお抹茶やお煎茶を引き立てるものであるため、小豆や餅米などの素材の味を大切にし、余計な味や香りを付け足すことはしません。薄桃色の柔らかな花弁の色合いから、春の到来を感じていただけたら嬉しいですね」と古田さん。

社長の古田泰久さん。「茶寮宝泉」の店内にて。

野菜・果物

立春に旬を迎える野菜は、フキノトウです。蕗(フキ)の花の部分にあたり、花が咲いた後に地下茎から伸びる葉がフキとなります。フキノトウは、春の訪れを感じさせてくれるほろ苦い風味が特徴。ただ苦味、えぐみの強い分、しっかりアク抜きしてから調理する必要があります。代表的な料理は、天ぷらや蕗みそです。

また、立春の頃に美味しい果物は、キウイフルーツです。ニュージーランドの国鳥・キウイと表面の細かな毛が似ていることからこの名前がつきました。冬から春にかけて旬になるのは国産品であり、ニュージーランド産は夏から冬にかけて出回ります。1個当たりのビタミンCがレモンよりも多く、美肌作りにおすすめとされるフルーツです。固いものはリンゴやバナナと一緒に袋に入れて、冷蔵庫で保存すると早く熟します。

立春の頃に美味しい魚は、鰆(さわら)です。魚編に春と書く”さわら”。ただ、字の通りに旬が春であるのは関西の話です。関東では、産卵期前の脂が乗った 12~2月の鰆が好まれるため、旬は冬だと認識されています。鰆の肉質は白く、サバ、イワシなどに比べて脂質含量が少ないです。そのため味が淡泊で、くせがないとされます。塩焼きや、照焼き、てんぷら、ムニエル、フライなど、料理の幅も広いです。

立春の季節の花とは

立春の季節に咲く花といえば、オオイヌノフグリです。鮮やかな瑠璃色の花が早春の野を染めてくれます。花の後にできる、中央がくびれた球体をした実は、さく果(=熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)です。なお「犬のふぐり」という名の由来は、この実が犬のふぐり(睾丸)に似ていることとされます。

オオイヌノフグリ

また、マンサクも立春の頃に花開きます。マンサクは、冬の名残のある野山などで、いち早く春の訪れを告げるように咲く花木です。黄色い紐のからんだような花をつけます。「マンサク」の名の由来は、花が枝に満ちる様の「満作」や、春真っ先に開花することから「まず咲く」や「真っ先」などです。花がよく咲けば豊作、花が少なければ不作など、稲の作柄を占う植物としても機能していたとされます。

まとめ

春の始まりを告げる「立春」。それは、旧暦上では一年の始まりの時期でもあります。まだまだ寒さは厳しいですが、葉っぱが落ち切った枝の先に小さなつぼみを見つけることができれば、小さな春の兆しを感じられるはずです。

外を歩く際にいつもより少し意識して周りの草木に目を向ければ、季節の移ろいを発見できるのではないでしょうか。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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