
日本の伝統的な醸造酒である清酒(日本酒)。近年、若い世代を中心に日本酒への関心が高まっています。しかし、「清酒」と「日本酒」という言葉の違いや、純米酒、料理酒など、似たような用語の違いがわかりにくいという声も。今回は、清酒にまつわる基礎知識をわかりやすく解説します。
文/山内祐治
目次
清酒と日本酒の違いとは? 法律上の定義から解説
清酒と純米酒の違い。ランクと製法から理解する
清酒と焼酎の違い。醸造酒と蒸留酒の違いを理解しよう
清酒と料理酒の違い。知って得する料理酒の特徴
ちなみに純米酒と純米吟醸酒の違いは? 香りと味わいの特徴
まとめ。清酒(日本酒)の基礎知識を身につけよう
清酒と日本酒の違いとは? 法律上の定義から解説
清酒と日本酒、実は両者には明確な違いがあります。「清酒」は国の税法(酒税法)で定められた正式な呼び方です。一方、「日本酒」は日本で製造された清酒を指す呼称となっています。GI(地理的表示)で、保護もかけられています。
国内で飲む場合、両者に実質的な違いはありませんが、海外との関係では重要な違いが生じます。例えば、アメリカで製造された日本式の酒は「清酒」とは呼べても「日本酒」とは呼べません。つまり、日本酒とは「日本国内で醸造された清酒」という定義になるわけです。
清酒の基本定義は「米と米こうじと水を原料として発酵させてこしたもの」。この定義のもと、さまざまな製法やグレードによって多様な種類が生まれています。近年では、海外での日本酒人気の高まりを受けて、「SAKE(サケ)」という呼び方も定着してきており、世界的な認知度も着実に上昇しています。
清酒と純米酒の違い。ランクと製法から理解する
清酒は大きく「特定名称酒(高級酒)」と「普通酒」に分類され、高級酒はさらに8つのクラスに分かれています。この分類の重要なポイントは、醸造アルコールの添加の有無です。
純米酒は、この特定名称酒の分類の一つで、醸造アルコールを一切添加していないのが特徴です。味わいの特徴としては、炊きたてご飯のような香りや、時にはおこげのような香ばしさも感じられ、「お米を飲んでいる」という表現がぴったりの味わいを持っています。
純米系には純米大吟醸、純米吟醸、特別純米などが含まれ、醸造アルコール添加系には大吟醸、吟醸などが含まれます。これらは米の精米歩合(どれだけ米を磨いたか)によって分類されており、それぞれに特徴的な味わいと香りを持っています。

清酒と焼酎の違い。醸造酒と蒸留酒の違いを理解しよう
清酒と焼酎の違いは、ビールとウイスキーの関係に例えるとわかりやすいでしょう。清酒は米を発酵させて造る醸造酒で、比較的アルコール度数が低いのが特徴です。一方、焼酎は米や芋、麦などの原料を発酵させた後に蒸留して造る蒸留酒です。
焼酎は特に九州地方で愛飲されており、ウイスキーなどの蒸留酒と比べるとアルコール度数は控えめですが、原材料の特徴がはっきりと感じられるのが魅力です。芋焼酎なら芋の香り、米焼酎なら米の香り、麦焼酎なら麦の香りをしっかりと感じることができます。
製法の違いは味わいにも大きく影響します。清酒は発酵過程で生まれる繊細な香りや味わいが特徴で、一般的にアルコール度数は15%前後。一方、焼酎は蒸留によって20%以上のアルコール度数となり、原材料の個性がより際立ちます。このため、食事との相性や飲み方にも違いが生まれ、清酒は冷酒から熱燗まで幅広い温度帯で楽しめる一方、焼酎もロック、水割り、お湯割りなど幅広い飲み方が可能です。
清酒と料理酒の違い。知って得する料理酒の特徴
料理酒も清酒の一種ですが、一般的には飲用には向いていません。その大きな違いは税制にあります。料理酒は材料として使用する際の税率が、飲用酒より低く設定されています。その代わりに、飲用に適さないよう塩味が加えられているものが散見されます。
ただし、料理店では純米酒を料理酒として使用したり、酒蔵が特別に旨味を強くした料理専用の日本酒を製造したりしています。一般家庭で使用する場合は、料理の用途に応じて使い分けるのがおすすめです。
料理酒の特徴として、一般の清酒と比べて旨味が強く設定されています。これは料理の味を引き立てるための工夫です。また、一般的な料理酒には塩分が含まれているため、料理の味付けの際には調整が必要になります。料理店などで使用される純米酒ベースの料理酒は、より繊細な味わいを実現できる反面、コストが高くなる懸念があります。
ちなみに純米酒と純米吟醸酒の違いは? 香りと味わいの特徴
純米酒と純米吟醸酒、どちらも醸造アルコール無添加のお酒ですが、その特徴は大きく異なります。
純米吟醸酒は、お米を通常以上に磨くことで、フルーティーで華やかな香りを持つお酒に仕上がります。上品できれいな味わいが特徴です。精米歩合(玄米の何パーセントまで磨いたか)によって、さらに純米大吟醸(50%以下)と純米吟醸(60%以下)に分かれます。
一方、純米酒は炊いたご飯のような香りがしっかりと感じられ、アルコールの香りも加わることが多いのが特徴です。精米歩合は純米吟醸酒ほど低くないため(70%程度)、米の旨味や深みのある味わいを楽しむことができます。
また、口に含んだときの印象も異なります。純米吟醸酒は軽やかでなめらかな口当たりが特徴で、純米酒はしっかりとした味わいと余韻が感じられます。温度による味わいの変化も異なり、純米吟醸酒は冷やして飲むことで香りを楽しめる一方、純米酒は常温や燗をつけることでより深い味わいを引き出すことができます。
まとめ。清酒(日本酒)の基礎知識を身につけよう
清酒(日本酒)の世界は、一見すると専門用語が多く複雑に感じられるかもしれません。しかし、基本的な区分を理解することで、より深く日本酒を楽しむことができます。
ポイントを整理すると:
– 清酒は法律上の正式名称で、日本酒は国内産の清酒を指す一般的な呼び名
– 純米酒は米と米こうじと水のみで醸造されたもの
– 焼酎は蒸留酒で、清酒(醸造酒)とは製法が異なる
– 料理酒は調理用に特化したお酒
– 純米吟醸酒は華やかな香りが特徴で、純米酒は米の旨味を強く感じられる
日本の伝統的な醸造技術が生み出す清酒は、和食との相性は言うまでもなく、近年では洋食やアジア料理との相性の良さも注目されています。まずは自分の好みに合った日本酒を見つけることから始めて、徐々に知識を深めていくことをおすすめします。さまざまな種類の日本酒を味わい、その違いを楽しむことで、より豊かな食文化を楽しむことができるでしょう。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史
