この大根は一般的に、「辛味大根」という特定の品種を指していうわけではない。全国には非常に多くの大根の種類があるが、その中で、小さめで辛味が強く、水分が少ない大根を、総称して、このように呼んでいる。各地に、その土地ならではの辛味大根があるが、色も形も様々だ。
昔から有名なのは、信州産の「鼠大根」や「親田辛味大根」。蕎麦処信州には、辛味大根の種類が多い。蕎麦と辛味大根の組み合わせの美味しさを、良く知っていたということなのだろう。
大根おろしの汁を絞って、それを蕎麦つゆに使って味わう「おしぼり蕎麦」という食べ方も、信州の郷土蕎麦のひとつになっている。
辛味大根の使い方だが、皮の部分に辛さがあるため、皮をむかずにそのまま擂り下ろすのが、より持ち味を引き出す食べ方だ。大根の細胞を傷付けたほうが辛さが出るので、鋭い金属のおろし金などを使うのが良いだろう。
本来、辛味大根は、秋から冬を越して春先までが、辛さが増す時期だ。その意味でも、主役の蕎麦が美味しくなるころと、うまい具合に重なっている。
今では代表的な薬味とされている山葵は、その昔、辛い大根おろしが手に入らなかったときに、代用として使われたものだという。
蕎麦と辛味大根の、絶妙の取り合わせ。ぜひ、寒さも厳しい今の時期に、味わっていただきたい。