【料理をめぐる言葉の御馳走~第5回】永田基男②

 

「お造りを召し上がるとき、最初は醤油をつけずにそのままで。すると、魚の香り、甘みが分かります。塩気が欲しくなった時に、箸の先に醤油をつけて口へ運べばいいんです」

一年間、京都の割烹料理店「千花」へ通いながら、主人永田基男から、料理の〈いろは〉を教えていただいた。京都の四季折々の素材、それも蔬菜の名産地なので、九条ねぎ、聖護院かぶら、堀川ごぼう、賀茂なすといった具合に、旬の野菜をことごとく簡潔な調理で仕上げた料理を学ばせてくれたのをはじめ、お椀の薄味の加減など、言い出したらきりがないほど。
四月に、鯛のお造りがでた時だった。私が醤油に山葵を溶いて鯛の刺身のひと切れを箸でつまみあげ、口に運ぼうとしたそのとき、大将は「できれば、まずは何もつけずにそのままで召し上がってください」と言った。

東京の下町で生まれ育った私は、醤油をつけずに食べると生臭いのではと思ったのだが、大将に言われるまま、鯛をいただくと、まずは香りが立ち、甘みを感じ、そしてうま味がでてきたところで醤油が欲しくなった。
その時、大将が間髪をいれずに言ったのが「箸の先に醤油をつけて運べば、鯛のうま味が断然増します」とのことだった。

「日本人は繊細で微妙な味がわかると言いますが、こちらから見ていると、魚を味わうというより、醤油にまみれた魚を食べているようにしか思えません」

「千花」の大将は、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べることが大切であることを教えてくださった私の師匠である。

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