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蕎麦(そば)

一杯の「かけ蕎麦」で店主の技量がわかってしまうのはなぜか?【片山虎之介の「蕎麦屋の歩き方」第27回】

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蕎麦職人の技術と感性が否応なしに味に現れる「かけ蕎麦」。

京都の蕎麦店を取材した時、「ぜひ、かけ蕎麦を味わってください。汁に力を入れましたので」と、主人にすすめられた。なかなか言えない言葉である。

かけ蕎麦は、店の側からすると「怖いメニュー」である。なぜなら、作った人の技量が見えてしまうからだ。東京のある老舗蕎麦店の名人として名高かった主人は、かけ蕎麦の注文が入ると、わざわざ厨房に「しっかり作るように!」とひと声かけて職人の気持ちを引き締めたものだ。

茶道では、亭主が点てた茶をいただくことで、客と亭主のコミュニケーションが成立する。蕎麦もそれに似たところがあって、蕎麦を味わうことで、それを作った職人の考え方や技術、人となりまでも推し量るのが、ひとつの楽しみ方だ。

もり蕎麦が最も良い例だが、麺の太さ・細さ、食べた時の食感、風味の生かし方、蕎麦つゆとの味のバランスなどを見ることで、蕎麦職人の「狙い」を読み解くのである。

「うーむ、ここまでやるか」とか「なるほど、そうきたか」、あるいは「やや、これはただ者ではないぞ」などと、武者修業の侍がすれ違う時のような、無言の丁々発止をするのが、もり蕎麦の醍醐味である。
 
もり蕎麦の食味は、材料を吟味したり、蕎麦を作る作業を手抜かりなく行なえば、ある程度はまとまってくる。良い材料を使い、真面目に仕事をすれば、相応の評価は得られるものだ。

しかし、かけ蕎麦は、ちょっと怖い。

汁の味は繊細で、どんなに良い材料を使っても、作る人のさじ加減ひとつで良くもなり、悪くもなるからだ。蕎麦の麺は、熱い汁が苦手だ。油断すると短時間でふにゃりとのびてしまう。客に出すタイミングを見極め、温度、食味をコントロールしながら作業を手際よく行なわなくてはならない。

まさに蕎麦職人の技術と感性が、隠しようもなく味に現れてしまうのが、かけ蕎麦なのだ。

「かけ蕎麦を味わってください」と申し出てくれた蕎麦職人の一杯を、いただいた。

美しい蕎麦である。細い蕎麦切り(蕎麦の麺)が、薄色の汁の中に漂っている。濃口醤油と淡口醤油、あるいは白醤油も使っているかもしれない、蕎麦の姿が透けて見える汁は、東京ではなかなか出会えない。

まずは、汁を一口すすってみる。

旨味が生きた、バランスの良い温かい汁の味が、蕎麦を食べる時のかすかな緊張感を解きほぐしてくれる。吸い物というには強い味だが、汁だけ飲んでも楽しめる頃合いの濃さだ。蕎麦の味を生かすために、汁の味を殺すという作り方ではない。こういうところに、作る人の思想というと大げさだが、料理の基本姿勢が見えてくる。

蕎麦を箸ですくい上げ、口に運ぶ。汁とともにすすり込むと、細いけれどしっかりと食感を保った麺が、舌や喉を優しくなでながら滑り落ちていく。

結局、汁は最後の一滴まで飲み干してしまった。結構なお点前でした、と言いたくなる蕎麦であった。

店の名前は『花もも』。京都にある小さな店だが、才能あふれる主人が真っ向勝負で蕎麦に取り組んでいる。2016年1月号の『サライ』に、その時の記事が掲載されているので、ぜひご一読いただきたい。

■『手打ちそば 花もも』
住所/京都市中京区丸太町麩屋町西入ル昆布屋町398
電話/075-212-7787

文・写真/片山虎之介

世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web(http://sobaweb.com)』、及び『そばログ(http://soba-log.com)』編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。サライで撮影と文を担当して記事を制作。12年になる。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)などがある。

 

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