■1本目:泡盛「春雨25度」1800ml 2448円
沖縄は那覇市の住宅街の真ん中に、ごく小さな酒造所があります。名は宮里酒造所。ここは地元の沖縄でも、なかなか入手しづらいといわれている銘酒『春雨』をつくっている酒造所です。
国破れて山河なし――それが本土の盾となって終戦を迎えた沖縄の実情でした。色という色、形という形がことごとく圧殺された、すさまじく白いばかりの世界だったといいます。
宮里酒造所の泡盛づくりは、そんな真っ白い風景のなかに始まりました。創業は終戦の翌年、昭和21年(1946)のことです。
どれほど焼け野原となっても、季節は変わらずめぐってきます。降りそそぐ雨に、大地は新たなよみがえりのときを迎えます。
泡盛『春雨』の名は、沖縄のよみがえりへの切ない願いを込めてつけられました。「春は希望、雨は恵み」です。
今、3代目蔵元の宮里徹さん(59歳)は言います。
「古くも香り高く、強くもまろやかに、からくも甘い酒 春雨」
意外と知られていないかも知れませんが、泡盛は基本的にどこの蔵もまったく同じ「タイ米」と「黒麹菌」から造られます。
そのなかでも、明らかに抜きんでた芳醇な旨味を持つのが『春雨』です。香味は、3代目が口にする先の表現がぴたりときます。
小さな蔵ですが、宮里さん独自の見解のもと、しっかりとデータの蓄積を行うことで、香味の再現性にきわめて優れています。
長期間の熟成だけに頼らずとも生まれる、豊かな風味を持つ泡盛造りに真摯に取り組んできています。その姿勢が、様々な品評会で受賞を重ねる結果につながっているのでしょう。
通常の泡盛は、概ね30度もしくは43度が主流です。それに対して、今回の『春雨25度』は、常に食中酒としての泡盛を模索してきた宮里さんらしい試みのお酒のひとつ。
「和食を意識した度数、お湯割りや水割で飲んで欲しい」というのが宮里さんの企図するところです。
南国の蒸留酒を“お湯割り”で飲む、というのもなんとなく不思議な感懐がありますが、さっそく、料理と合わせてみましょう。
お湯の温度はかなり温(ぬる)めにしてみましたが、おや!? これは面白いですね。
『春雨』の持つ個性とカレー餡の優しいスパイシーさが同調して溶け込むというか、スーッと消えゆく印象です。
料理の風味をかき消すというと、ネガティブな表現ですが、驚くほど中和されてゆく感じです。
鴨の赤身部分よりも脂身とよく合いましたので――この鴨の脂身がもっと料理に使われていれば「中和+引き立たせるマリアージュ」として相性は抜群だったかも知れません。
決して『春雨』が強すぎるわけではないのに、料理全体をうすい泡盛の膜で覆った感じになりました。
次はフランス・ブルゴーニュの赤ワイン「アミオ・セルヴェル ブルゴーニュ・ピノノワール2008」を合わせてみましょう。
>>次のページへ続きます。