【料理羅針盤~第3回】
美食の新天地:アメリカ・ニューヨーク篇
この9月にニューヨークへ出かけてきた。昨年2月にニューヨークを訪れて以来、現地の「最新料理事情」のあまりの躍進、変化ぶりに驚き、今年は2月に続いて2度目のニューヨークだった。
何より目を瞠ったのが、「すし」や「日本料理」のブームに乗っての、和食材の進出である。例えば、まぐろなどの魚を築地から取り寄せるレストランが増え、誤解を恐れずに言えば築地─銀座と築地─ニューヨーク間がいまや等距離になったと言っても過言ではない。
海老、蟹、貝は鮮度が何より命だが、白身の魚は活きがよくともすぐには使えない。しばらく寝かせてから調理するのは当たり前である。まぐろも解体したばかりのブロックをすぐさまさく取りしても、その日のうちに使う店は稀だろう。脂ののったとろなどは何日も寝かせて熟成させ、それから刺身や握りの種として使う。つまり、その食べごろの見極めが大切なのである。それならば、築地から銀座へ運ぼうが、ニューヨークへ届けようが同じということになるのだ。
今年の2月、レストラン「ジャン・ジョルジュ」で、目を瞠るまぐろ料理に出合った。それは前菜の一皿としてサービスされた料理で、アヴォカドのピューレの上にまぐろの赤身を細長いパスタ状、言ってみれば、きしめんに似たフェットチーネのようにしたものを巻きながら積み上げ、上にはラディッシュを花びらのように飾ってあった。
そのまま食べればよいものかと思っていると、サービス係がまぐろの赤身の周囲にぐるりと少しだけ黄味がかったジュースをかけ回してくれた。それが、酢と生姜で作った透明のジュース!まぐろをフォークで巻きながら舌へ運ぶと、いきなり脳裏に浮かんだのが「すし」の味だった。酢めしがなくとも、醤油で軽くマリネされたまぐろの赤身と酢と生姜の組み合わせだけで、私たちはすぐに「すし」を連想できるのだった。
オーナーシェフのジャン・ジョルジュによれば、1月に東京を訪れた際、「すきやばし次郎」ですしを食べ、酢のほどよく利いたにぎりずしからヒントを得て考え出したもので、「次郎」および日本へのオマージュ(敬意)なのだという。私は、これまで、すしと日本料理以外で、まぐろの美味しい料理に出逢ったことがなかったものだから、食べて驚き、とても感動した。
欧米人にとって「米」は野菜の1種で、「SUSHI」は大好きでも、すしめしは苦手という人がとても多い。「次郎」のすしめしは、酢がきちんと利いた酢めしだからいいが、酢の効いていないすしめしは、そこはかとない味で、我々日本人でも飽きてしまう。そこを考慮に入れてのジャン・ジョルジュのひと皿は、お見事というほかないのである。