老舗そば屋の「名人」を祖父に持つ主人公・矢代稜が我々を新たなそばの世界へいざなってくれる人気蕎麦漫画『そばもん』。そこからスピンアウトしたムック『蕎麦本』(小学館)の発売を機に、作者・山本おさむ氏に『そばもん』誕生の裏話を聞いた。

カバー 

僕は『そばもん』を描くまでは、人間の苦しい面や、つらい部分をテーマにした作品が多かったんです。なので、次は明るい漫画を描きたいなと。恋愛ものはどうかと当時の担当者に提案されたのですが、どうもしっくりこない。そんなとき、藤村和夫先生の本『蕎麦屋のしきたり』と『そばしょくにんのこころえ』に出会い、これだ!と思いました。当時も、グルメブームでしたから蕎麦好きライターの本やら、蕎麦の歴史、蕎麦の専門書はいくらも出版されていたのですが、藤村先生のように現場の経営者(元『有楽町更科』)が、お蕎麦屋さんに向けて書いた、蕎麦職人の技術の本は初めてでした。読み進むうちに、蕎麦を食べているときの素朴な悩みが、解決していくんです。例えば、固い蕎麦を食べることになったときに、これには、このような原因があるんだと系統立ってすぅ~っとわかってくるのです(ビッグコミックス『そばもん』第6巻参照)。しかし、舞台は決まったけれど、修業ものだと成長するのに時間がかかる。なんてったって、包丁三日、延し三月、木鉢三年……なんて言われてますから、一人前になるには10年ぐらいかかる。それなら、もうなんでも知っている完成した人物が若造をからかったり、店の問題を解決したり、話のよっては恋愛も盛り込める、そんな「椿三十郎」が蕎麦の達人になればいいんだと思いました。で、矢代稜の誕生です。すぐに稜はどんどんいろいろなところに動いていきました。

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