【ひと皿の歳時記~第128回】
名古屋の割烹料理店『吉い』の「まながつおと花山椒」
名古屋・新栄の繁華街から少し離れた場所に小体な割烹料理店『吉い』(よしい)はあります。1日7名限定のカウンター席のみで、ご主人が調理、おかみさんが配膳を担当する、ご夫婦ふたりだけのお店です。
厨房には調理のお手伝いがいないということもありますが、『吉い』の料理は旬の素材ならではの持ち味を存分に引き出すことを第一に心がけた、じつに”簡潔な献立”ばかりです。
例えば、「たけのこ」。昆布出汁で湯がいただけの筍(たけのこ)を、そのまま出してくれます。
あしらいの定番である若布(わかめ)もなければ、木の芽も添えてありません。シンプルこの上なく、筍の旬の味わいを堪能できます。よほどの信念と素材に対する信頼がなければ、料理人はついつい「足し算」をしてしまうところです。
先日、ひさしぶりに『吉い』を訪ねました。その折に出てきたのが、「まながつおと花山椒」でした。季節のまながつおを蒸し煮にし、そこへ花山椒をたっぷりと添えてあります。
花山椒を楽しめるのはこの2~3週間と、命のまことに儚(はかな)い食材です。牛肉をはじめ様々な料理にさわやかな香りと緑黄の春の色どりを添えてくれます。
まながつおの、しなやかで柔らかい身質と甘みに花山椒が見事にマッチして、それは麗らかな春の宵のような味わいでした。このひと皿と次にめぐり逢えるのは一年後ですね。
【吉い】
住所/愛知県名古屋市中区新栄2-8-13 シャトー秋月 1F
TEL/052-241-0686(完全予約制)
営業時間/営業時間:18:00~20:00(L.O.)
定休日/日曜日、祝日