文・写真/山本益博
北京に本店がある『厲家菜(レイカサイ)』が、銀座に再出店して1年が経ちました。
北京の店に私が初めて出かけたのが1998年の夏のことでした。そこで出会った、香り高くて、爽やかで、食後の満腹感はなく、満足感が湧きおこってくる料理の数々は、今までの中国料理とは全く違うものでした。
もうあれから20年近い月日が流れましたが、今でも忘れられない料理の一つに「香鶏のスープ煮」があります。
鶏のお腹に薬膳食材8種(クコの実、ピーナッツ、干し椎茸、白木耳、干し筍、蓮の実、ナツメ、絹笠茸)の詰め物をし、2時間かけてスープ煮にした料理です。そのスープの清澄にして滋味だったこと。
日本料理のお椀の出汁やフランス料理のコンソメとは一味違う、淡いながらも滋味佳味天味と感じる味わいでした。
1周年を記念して、メニューのお手伝いをさせていただくことになり、どうしてもこの「香鶏のスープ煮」を仲間と一緒に味わいたく、提案させていただきました。
そしてオーナーシェフの厲愛茵さんが、北京に帰って、かつてのレシピを見つけ出し、「西太后」が日常の食事としてこよなく愛したこの料理を日本で初めて再現してくださいました。
先日、その本邦初公開の料理を、仲間とテーブルを囲んでいただいてまいりました。料理の出来栄えは、20年前を思い出すのに十分でした。
宮廷伝来の料理名は「八仙過海」。「八仙」とは、日本でいう「七福神」で、八人の仙人が海を渡ってくる、という意味だそうです。そう思って、大鉢の料理の中の香鶏を眺めると、八仙人を乗せた宝船に見立ててあるように思えます。
主菜には、他に「豆腐と帆立の豆鼓ソース」と「豚肉と白菜の煮込み」。「豚肉と白菜の煮込み」は、私が「厲家菜」のメニュー中でも飛び切りお気に入りの一品です。
これら主菜の前には、名物の「前菜10種」がテーブルに2回に分けて並びました。シンプルに、しかし、丁寧に手間をかけ、包丁技の光る「セロリの蛯子酢和え」や「白菜の芥子漬け」などは、いついただいても心に響く野菜料理です。
【今日のお店】
『厲家菜(レイカサイ)』
■住所/東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル9階
■電話番号/03-6228-6768(予約電話番号)
■営業時間/ランチ11:30~15:00(L.O.14:00)、ディナー18:00~23:00(L.O.21:00)
■定休日/日曜
※ドレスコードはスマートカジュアルで。
http://www.reikasai.jp/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。