この地の郷土蕎麦「越前おろし蕎麦」は、それだけで完成されたひとつの調和の世界を形作っている。そこに他の具材を合わせるのは、なかなか難しい。特に個性の強い具材を加えると、せっかくの蕎麦と大根おろしのハーモニーが台無しになることもある。
越前おろし蕎麦と蟹を、一緒に食べると、どうなるのだろうか。興味をもって味わってみた。すると、これが実に良く合うのだ。越前おろし蕎麦のちょっと太めの麺は、噛みながら、なおかつ喉越しを楽しむ食べ方をする。その優しい甘さに、エチゼンガニの上品な旨さが、違和感なく寄り添う。
ああ、同じ越前の国に産する食材は、同じ波長を持っているものなのかもしれない、と思わせるほど、ふたつの美味は見事に調和していた。