もっと正確に言うと、越前の海から揚がった蟹の旨さの記憶が蘇ってくるのだ。日本各地で、いろいろな蟹が獲れる。北から南、様々な蟹を食べ比べると、エチゼンガニは、身肉の瑞々しさや、やわらかな食感、そして癖のない甘さから、上品な味という印象を受ける。
蟹の王者と呼ぶに相応しいこの蟹を、蕎麦に合わせたのが、福井県越前市の老舗蕎麦店『森六』だ。何年か前、同店を訪ねた私に、主人の堀正治さんが、「片山さん、今度、こんなメニューを作ってみたんですけど、感想、聞かせてください」と、出してくれたのが、まだ試作中の蟹おろし蕎麦だった。