新蕎麦を訪ねる旅に出よう【片山虎之介の「蕎麦屋の歩き方」第23回】

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淡い緑がかった色が美しい京都『有喜屋』の新蕎麦。

 

私は写真家という仕事柄、日本各地を旅することが多い。その結果、季節ごとに移り変わる日本の旬の味を、いつも現場で体験するという役得を味わっている。食の記事の取材をするということは、ひたすら旬を追いかけて旅を続けているという言い方さえできるのである。

旅と旬の味覚は、私にとっては切っても切れない関係にある。
だから新蕎麦も、旅先でいただくことが多い。

蕎麦の実は輸送することが容易なため、産地で食べても、東京で食べても、大きな違いはないという考え方もあるだろう。

しかし、私には、産地で食べる新蕎麦の味はどうしてもちょっと違うと思えてならないのだ。
なぜなのだろうと思う。
東京で食べる新蕎麦が、おいしくないと言っているのではない。

収穫され、手をかけて調製された玄蕎麦を、東京の腕の良い蕎麦職人が精魂傾けて蕎麦切り(蕎麦粉を水を加えてこねて薄くのばし、細い麺にすること)に仕上げた蕎麦は、それはもう文句の付けようがないほどにおいしいものだ。

それでもなお、その蕎麦が一粒の種から芽を出して、雨風に叩かれながら育った現地で食べると、格別の味がする。それは何度も何度も体験しているうちに、私の中では揺るぎない事実となってしまっている。

水が違うのだろうか。
製粉はもちろん違う。
出汁の材料も異なるし、醤油も味醂も違う。
食文化が異なるので、麺の打ち方、太さ、弾力、食感も違ってくる。

確かに、その地で蕎麦切りに仕上げようとすれば、原材料以外のすべての条件が東京とは違ってくる。
これは、繊細極まる蕎麦という食物にとって、とてつもなく大きな違いだということに、ようやく気付いた。現場で食べる新蕎麦の味が特別なものになるのは、当たり前のことだったのだ。
その答えに思い至ったのは、この写真の蕎麦を食べているときだった。

京都の蕎麦を牽引する『有喜屋』(うきや)の新蕎麦。この材料は、『有喜屋』の店主自ら畑に立ち、種をまき、収穫した、京都産の蕎麦である。それを京都の食文化をベースに、昆布と節類を使って関西風の出汁のひきかたをした蕎麦つゆで味わう。

蕎麦打ちの技術は、東京の『上野藪蕎麦』から『有喜屋』主人の三嶋吉晴さんに伝えられたものだが、名人の技を確立した三嶋さんの蕎麦は、やはり『有喜屋』ならではの味がする。それは、前述したような微妙な差異の積み重ねが、結果的に大きな違いとして味に現れているのだ。

『有喜屋』で味わう、京都の新蕎麦とは、どういう味なのか。

京都産の玄蕎麦の殻をむいた「ヌキ」をそのまま石臼で微粉に仕上げて打った蕎麦は、とにかく色が見事だ。淡い緑が霞のように蕎麦切り全体に広がり、ひと目で新蕎麦だとわかる。

細切りで張りのある麺の食感は、江戸蕎麦のそれを思わせるが、土台には公家や寺社の富裕層によって積み上げられてきた京都の食文化が息づいていることを、はっきりと感じさせる。張りとやわらかさが同居し、優しさとか女性的という言葉が似合う蕎麦だと思う。

蕎麦つゆは、昆布と鰹節を使った滋味ともいえる味わいが、新蕎麦の風味に寄り添って、華やかさを盛り上げる。
江戸が粋であるならば、京都は雅趣といえば良いのだろうか。
江戸の言葉と京言葉、それぞれの耳触りが大きく異なるように、蕎麦の味にもその土地独特の魅力が備わっているものなのだ。

【有喜屋 京都桂川店】
住所/京都市南区久世高田町376-1 イオンモール京都桂川2階
TEL/075-934-1078
営業時間/11:00~21:30(L.O.)
定休日/無休
URL/http://www.ukiya.co.jp/tenpo_sozai/katsuragawa.htm

文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。

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