文・写真/インディ藤田(サライ編集部)
花見の桜と言えば、一般的にはソメイヨシノですが、京都では枝垂れ桜を愛でる方も多いのです。京都の桜名所は数多くありますが、紅枝垂れ桜で有名なのが、妙心寺退蔵院です。
例年よりも開花が遅れた今年、4月8日の夜に、この妙心寺退蔵院で貴重なイベントが催されました。桜の花を愛でながら、精進料理とシャンパーニュのマリアージュを学ぶというもの。精進料理とお酒なんて、合わせていいんだろうかと一抹の不安も抱きつつ、著名な文化人や有名ホテル、レストランの支配人などに交じって、私も体験して参りました。
この日、紅枝垂れ桜は三分咲き。あいにくの雨でしたが、しっとりと濡れた桜の花も美しいものです。院内の庭園のあちらこちらにシャンパーニュの瓶が飾られ、普段とは違う風景を作り出しています。
さて、肝心の精進料理とシャンパーニュのマリアージュ。果たして……。
料理は、ミシュランの一つ星を獲得している『阿じろ』によるもの。精進料理といえば、野菜のみを使っていて味も薄いというイメージですが、こちらの料理は素材を生かしたしっかりとした味わい。決して薄いという感じはしません。旨みを上手く生かしているからでしょうか。
妙心寺退蔵院の副住職、松山大耕さんによると、通常、精進料理は「五味」=甘・酸・辛・苦・鹹(塩辛さ)からなると言われていますが、これに「淡い」が加わります。食べ終わってから1時間も2時間も経っても思い起こされるような深い味わいが「淡い」なのだとか。
素材を生かして組み合わせ、調理の技術により余韻が長くなる。そうした味わいに、食する場所や共にする人や空気も含め、長く余韻を感じられるものが精進料理の神髄なのかもしれません。
シャンパーニュは、日本では祝い事にも利用されるので消費が多いそうですが、この日、饗された「ビルカール・サルモン」は、フランスのミシュラン星付きレストラン全てで採用されているという逸品。
東京でも、六本木にある『ジャンジョルジュ・トウキョウ』や銀座の『鮨竹』など名店で供され、フレンチから鮨まで食事に合わせやすい安心の銘酒です。
この日は、そんな「ビルカール・サルモン」の5種類のキュヴェが料理に併せて順に出されました。
例えば、ピスタチオ豆腐。和食なのにピスタチオ?と使用食材だけでもユニークですが、濃厚なだけでなく香りが深い料理。これにシャンパーニュを合わせると、さらにピスタチオの香りが膨らみ、余韻が長く続きます。
「ブリュット・ブランドブラン・グランクリュ」もシャンパーニュ自体の余韻が長いのに、料理の風味を邪魔することがありません。
リンゴやアーモンドを使った白和えにも、当然のようにシャンパーニュは合いますが、達磨うどんの椀(煮物替り)との相性には驚かされました。うどんの麺を丸めて揚げ、それを出汁に漬けて食すのですが、庶民的なうどんが全く違う旨みの世界観で調和するのです。シャンパーニュが引き立てないはずがありません。
「キュヴェ・ニコラ・フランソワ・ビルカール・ブリュット 2002」は、デカンタで供されました。シャンパーニュをデカンタージュするなんてこと、あまり出会う機会がありませんが、繊細かつ複雑なヴィンテージシャンパーニュの個性と長所が絶妙に引き出されるのです。
後半の料理には、なんとアボカドを使った酢の物も登場。既成概念にとらわれない精進料理を、シャンパーニュの味わいがしっかりと支えてくれます。
素晴らしい年にのみ造られる最高峰的な「キュヴェ・エリザベス・サルモン・ロゼ・ブリュット 2006」が最後に供されましたが、デザートのイチゴと桜餅(地方によっては道明寺とも言われるスタイル)にも寄り添ってくれます。
料理人の技術と発想もあるとは思いますが、シャンパーニュがここまで精進料理に合うとは想像できませんでした。
桜が終われば、間もなく新緑の時期へ。料理をシャンパーニュだけで通すというスタイルを試すには、絶好の季節かもしれません。
【妙心寺退蔵院】
■住所/京都市右京区花園妙心寺町35
■電話/075-463-2855
■拝観時間/午前9時~午後5時
http://www.taizoin.com/
【精進料理 阿じろ】
■住所/京都市右京区花園寺ノ前町28-3
■電話/075-462-8049
http://www.ajiro-s.co.jp/
【ビルカール・サルモンについてのお問い合わせ】
電話:03-6367-8756(JALUXワイン・フーズ部)
https://www.shop.jal.co.jp/disp/010006019/
文・写真/インディ藤田(サライ編集部)