四季を彩る豊かな自然の恵み、旬の素材の味わいをいかしてつくられる日本料理。キッコーマンでは、その奥深い魅力を伝えるべく「和食の魅力 料理サロン」と題した日本料理の講座を4回にわたって開催しています。約2時間半の講座では、国内外で活躍する料理人が、それぞれのテーマで和食を語り、料理を実演。さらに、参加者はその料理をコース仕立てで味わうことができるという貴重な催しです。
昨年の12月10日(土)に、同講座の第3回がキッコーマン東京本社のKCCホールで開催されました。今回、講師を務めたのは、近茶流嗣家(きんさりゅうしか)で「柳原料理教室」副主宰の柳原尚之(やなぎはら・なおゆき)さんです。柳原さんは「和食と行事」をテーマに選び、年の瀬の開催に合わせて、お節料理に込められた願いや作り方のコツを丁寧に解説。行事によって受け継がれてきた日本の食文化をわかりやすく紐解き、好評を博した料理講座の模様をご紹介しましょう。
■「行事」から日本の食文化を学ぶ
一年を通じて、日本には古くから伝わる行事がたくさんあります。その行事に必ずついてまわるのが食文化。すなわち、「行事を大切にすればおのずと、日本の食文化である和食について学ぶことができるのです」と、柳原さん。そのような年中行事の中でも、特に「お正月」は日本人にとって大きな行事だといいます。
「近年、お正月料理とお節料理が混ぜこぜになって、ご馳走を食べれば正月が越せるという感じになってしまっていますが、お節料理とは本来、一品一品に願いを込めて作っていくもの。こうした、行事にまつわる日本の食文化を大切にしていきたいと思うのです」
こう語る柳原さんは、まずはお節料理で最も大切だといわれる「三つ肴(みつざかな)」について解説してくれました。
関東では、子孫繁栄を願う「数の子」、健康を意味する「黒豆」、豊作を祈る「田づくり」の3品が三つ肴にあたります(関西では「黒豆」の代わりに「叩き牛蒡(ごぼう)」が入ることが多い)。田作りの材料は、乾燥させたカタクチイワシですが、もともと田んぼに入れられていた肥料の呼称でした。「五万米(ごまめ)」とも呼ばれることから、いにしえの人々の豊作を強く願う気持ちが伝わってきます。
その後、柳原さんがクルミを加えた「かわり五万米」をデモンストレーションしました。食感よく仕上げるためのコツは、胡麻油で炒めること。から炒りするよりも水分が抜けやすく、サクサクの食感に仕上がるそうです。
三つ肴のひとつである黒豆については、「雁喰(がんくい)」という品種についての話がありました。かつて関東では、この雁が噛んだ跡のようなシワがあり、形状の平たい黒豆「雁喰」が主流でしたが、最近では大粒で丸い「丹波黒」に取って代わられてしまったとのこと。しかしながら、噛めば噛むほど味わいが出てくるのが、雁喰の美味しさ。柳原さんは、このような食文化の変遷について研究し、昔ながらの味わいも大切にしています。
続けて、「鴨ロース」「鮭の黄金焼き」の調理法などを実演し、「こはだの柿衣あえ」は受講者の目の前でコハダのさばき方を披露。調理方法の説明においても、コハダがやがてコノシロへと成長する縁起のいい出世魚であることや、「コノシロ(この城、すなわち江戸城)を食う」となることから、武士は決して食べなかったというエピソードを折り込み、参加者の興味を誘いました。
■郷土食溢れる「雑煮」の面白さ
「今日はつきたてのお餅を入れたお雑煮を、みなさんに味わっていただきましょう」
そんな柳原さんの呼びかけに参加者の期待が高まる中、いよいよお雑煮の実演です。柳原さんは毎年の年末、父であるに近茶流宗家・柳原一成さんと供に、お節料理とお雑煮を研究するために、地方を旅してまわっているそうです。道中で出会った珍しい雑煮について、いくつかを紹介してくれました。
「長崎県には『具雑煮』という、たくさんの具材と丸餅を煮込んだ鍋のような雑煮があります。私が食べたものは13種類も具が入っていて、雑煮椀もとても大きいものでしたね。そして、徳島県の祖谷(いや)地方でおなじみなのが『具なし雑煮』。昔、米がとれなかったこの地域では、かつて餅の代わりに豆腐を入れて雑煮を仕立てていたのだそうです」
身近な雑煮ですが、地域によってまったく異なる味わいで食べられていることに驚きの声があがりました。そんな話に耳を傾けながらも、今回、柳原さんが教えるのは「近茶流 江戸雑煮」です。日高昆布と鰹節でとった、すっきりとした味わいの一番出汁に、淡口醤油と塩を加えて調味。椀に、小松菜、車海老、蒲鉾、鶏ささみの4種類の具材を入れ、焼いた餅を加えて出汁を注いだら、吸い口として「重ね松葉」の形状に切った柚子を添えて完成です。
■寿ぎの献立をコース仕立てで試食
講師の技を目で見て学んだあとは、昼食を兼ねて、同じ料理をコース仕立てでゆっくり試食できるのが、この講座の大きな魅力です。柳原さんが今回のために考案した、寿(ことほ)ぎの献立のすべてをお見せしましょう。
実際の調理の様子を目にして、何気ないひと手間にも大切な意味があることを学んだ参加者のみなさん。改めてお節料理の意味を見直すと共に、和食の素晴らしさを実感することができました。今回の講座には、4名の『サライ』読者も参加。その感想をお聞きしました。
中村京子さんは、今年結婚したばかりのお嬢様と親子で参加。「娘と一緒に、お節料理の伝統や文化の話を聴くことができ、本当に良い機会になりました。車海老のきれいな色の出し方や、お雑煮の柚子の彩りの添え方などは、とても参考になりました」。娘の澤山ゆりさんも「母から教わったお節のいわれを、改めて学ぶことができました。今回教わった料理も少しずつ、挑戦していけたらと思っています」と、にこやかな笑顔で話してくれました。
「鮭の黄金やき」の作り方に出てくる「幽庵地」の由来について、鋭い質問を投げかけたのは、地石眞理子さん。「なんとなく疑問に思っていたことを、柳原先生が丁寧に教えてくださいました。舌の肥えた北村幽庵さんが考案したものだということ、醤油・酒・味醂を配合したものであるということ、甘味付けに味醂を使うことが当時は珍しかったこと……。初めて知ることばかりで、勉強になりました」
地石さんと一緒に姉妹で参加した、姉の山本弘子さんは大の料理好きなだけに「お雑煮の出汁がとても美味しくて!」と感激したそう。「今年は柳原先生のやり方で出汁をとってみたいと思います。それから『こはだの柿衣あえ』も、柿酢の自然な甘味がコハダによく合っていて、ぜひ作ってみたいです」
行事にまつわる日本の食文化について、学ぶことができた今回の講座。最後に、柳原さんは「伝えていくこと」の大切さについて、参加者に訴えかけました。
「文化というのは一度途絶えてしまうと、復活させるのがとても大変です。ですから、伝え続けていかなければなりません。特にお節料理は、伝統的な作り方のみならず、さまざまな由来などもあります。こうした日本の大切な食文化がなくなってしまわないように、今年からぜひ、しっかりと願いを込めて料理を作ってみてください。そして、今日みなさんにお話しした知識を、広めてほしいですね」
■第4回「和食の魅力 料理サロン」参加者募集!
キッコーマン「和食の魅力 料理サロン」の第4回は、3月4日(土)に開催されます。次回の講師は、京都の日本料理店『瓢亭』15代目の髙橋義弘さんです。
『サライ.jp』では、この第4回「和食の魅力 料理サロン」に、応募者の中から抽選で2組4名様をご招待します。参加ご希望の方は下記の応募要項をご確認のうえ、お申し込みください。
【第4回「和食の魅力 料理サロン」 開催及び読者招待の概要】
■日時/3月4日(土) 12:00~14:30
■会場/キッコーマン東京本社1階 KCCホール
■住所/東京都港区西新橋2-1-1 ※銀座線虎ノ門駅より徒歩約5分
■講師/髙橋義弘さん(京都『瓢亭』15代目)
■応募方法/以下の応募フォームから、ご応募ください。
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■応募締め切り/2月9日(木)23時まで
■当選者の発表/当選された方には2月20日頃までに『サライ』編集部からご連絡いたします。
※この招待企画に当選し、ご参加いただいた方には、当日会場でアンケートなどの簡単な取材にご協力いただきます。
「和食の魅力 料理サロン」についての問い合わせ:
キッコーマンKCC和食の魅力事務局
TEL 03-3572-0360(受付時間/祝日を除く平日10:00~17:00)
キッコーマンのウェブサイトはこちら
取材・文/大沼聡子
撮影/田中良知
取材協力/キッコーマン